こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「うちの社員は、ただ作業をこなしているだけ」
ある経営者の方が、こんな悩みを口にしました。
「社員が、仕事を『ただの作業』としてしか見ていないんです。言われたことを、淡々とこなして、時間が来たら帰る。そこに誇りや熱意が感じられない。給料を払っているのだから当然のことをやっている、と言われればそれまでですが……どうすれば、もっと前向きに、自分の仕事を大切にしてくれるのでしょうか」
多くの経営者が抱える悩みです。そして、その解決を「給料」や「評価制度」に求めようとします。しかし、人が仕事に熱を込めるかどうかを左右する、もっと根源的なものがあります。それは「意味」です。同じ仕事でも、そこにどんな意味を見出しているかで、人の輝きはまるで変わる。今回は、「意味」という空気が現場を変える話をします。
―三人のレンガ職人
古くから伝わる、こんな寓話があります。
旅人が、レンガを積む三人の職人に「何をしているのか」と尋ねました。一人目は不機嫌に「見ればわかるだろう、レンガを積んでいるんだ」と答えました。二人目は「壁を作っているのさ。これで家族を養っている」と答えました。三人目は、生き生きとした表情でこう答えたといいます。「私は、多くの人の心の拠りどころとなる、大聖堂を建てているんだ」。
三人がしている作業は、まったく同じです。違うのは、自分の仕事に与えている「意味」だけ。そしてその意味の違いが、表情を、態度を、仕事の質を、そして職場の空気を、決定的に変えていくのです。これは単なる美談ではありません。現代の組織研究が、科学的に裏づけている事実です。
―同じ「掃除」をしていた、二種類の人々
経営学者のエイミー・レズネスキー(現イェール大学)らは、ある病院の清掃スタッフを対象に、興味深い調査を行いました。一般には「きつい仕事」と見なされ、満足度も低いだろうと思われていた職種です。
ところが調査してみると、まったく同じ職務内容のはずなのに、スタッフは二つのグループに分かれていました。一方のグループは、仕事を職務記述書どおりの「清掃作業」と捉え、つまらない、早く定年になってほしい、と語りました。しかしもう一方のグループは、自分たちを「患者を癒すチームの一員」と捉えていたのです。
後者の人々は、清掃の合間に、患者にそっと水を差し出し、不安そうな家族に声をかけ、見舞客の少ない患者のもとへわざわざ足を運んで話し相手になっていました。ある人は、意識のない患者の部屋の絵を時々掛け替え、何か良い刺激になればと願っていたといいます。どの薬剤が患者を刺激しにくいかを自ら学んだ人もいました。彼らは、与えられた仕事の中に、自分なりの意味を織り込み、いわば「違う仕事」を創り出していたのです。レズネスキーは、この営みを「ジョブ・クラフティング(仕事の創造的な捉え直し)」と名づけました。そして後者のグループは、満足度も働きがいも、はるかに高かったのです。
人は、「作業」にエネルギーを注ぐのではありません。「意味」にエネルギーを注ぐ。職場の空気とは、結局のところ、そこで働く人々が「自分は何をしているのか」をどう解釈しているか、その総和なのです。
―「ただの清掃」を「劇場」に変えた会社
日本にも、見事な実例があります。東京駅で新幹線の車内清掃を担う、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)です。
折り返し運転の合間、清掃に使える時間はわずか7分。その短時間で一編成を完璧に磨き上げる仕事ぶりは「7分間の奇跡」と呼ばれ、海外メディアでも大きく報じられ、ハーバード・ビジネス・スクールの教材にもなりました。しかし、最初からそうだったわけではありません。かつては、人目につきにくい、きついだけの裏方仕事と見なされていました。
転機は、矢部輝夫氏らが進めた意識改革でした。彼らは、清掃という仕事を「おもてなし」として捉え直しました。自分たちは単に汚れを落としているのではなく、これから新幹線に乗るお客様に、最高の空間と気持ちのよい旅の始まりを届ける——その舞台に立つ演者なのだ、と。彼らは自らの現場を「新幹線劇場」と呼ぶようになりました。制服を一新し、降車するお客様に一礼し、声をかける。仕事そのものは変わっていません。変わったのは、その仕事に与える「意味」でした。意味が変わったとき、スタッフの表情は誇りに輝き、現場の空気は一変し、結果として、世界が称賛する品質が生まれたのです。
―「意味」は、自然には生まれない
ここで大切なのは、こうした「意味」は、放っておいて自然に生まれるものではない、ということです。
経営者は、自社の仕事の意味を「言わなくてもわかっているはず」と思い込みがちです。しかし現場の社員には、目の前の「作業」しか見えていないことが多い。だからこそ、経営者の役割は、日々の作業を、その先にいる「誰の、どんな幸せ」につながっているのかと、繰り返し結びつけて語ることです。あなたの会社の仕事は、最終的に誰を笑顔にしているのか。その物語を、現場の言葉で、何度も伝える。
ただし、テッセイの改革を主導した矢部氏自身が、重要な注意を促しています。多くの経営者がこの事例に感銘を受けて施策を真似るが、その多くが挫折する、と。なぜなら、制服を変える、スローガンを掲げるといった「表面」だけをなぞるからです。意味づけは、一度の号令で植えつけられるものではなく、現場で毎日毎日、地道に徹底し続けることでしか根づきません。意味は、宣言するものではなく、共に生き続けるものなのです。
人は、意味を感じられる仕事には、誰に言われずとも力を尽くします。あなたの会社の社員は今、「レンガを積んでいる」のでしょうか。それとも、「大聖堂を建てている」のでしょうか。その答えを決めるのは、社員の資質ではなく、経営者がどれだけ仕事の意味を語り、共に生き続けてきたか——意味という空気の、積み重ねなのです。
―勝田耕司