『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「できない部下」は、できないままなのか!?

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「あいつは、何度言ってもダメなんですよ」

ある経営者の方が、一人の社員について、ため息まじりにこう言いました。

「うちに、どうにも伸びない社員がいるんです。指示したことしかやらないし、ミスも多い。もう何年も同じ。正直、期待していません。彼にはあまり重要な仕事は任せず、無難な作業だけをお願いしています」

一見、合理的な判断に見えます。できない社員に大事な仕事は任せられない。だから簡単な仕事だけを与える。しかし、ここに見落とされている重大な事実があります。その社員が伸びないのは、もしかすると「あなたが、彼に期待していないから」かもしれない——。今回は、「期待」という目に見えない空気が、どれほど人の能力を左右するかをお話しします。

―ランダムに選ばれた子どもが、本当に伸びた

心理学者のロバート・ローゼンタールとレノア・ジェイコブソンが1968年に発表した、有名な実験があります。

二人はアメリカの小学校で、全校生徒に知能テストを実施しました。そして教師たちに、「これは将来大きく伸びる子どもを特定できる特別なテストだ」と伝え、「今後、知能が著しく伸びる見込みのある子」の名簿を渡しました。教師たちはその名前を信じました。ところが——その名簿に載った約2割の子どもたちは、テストの成績とは一切関係なく、完全にランダムに選ばれていたのです。

1年後、再び知能テストが行われました。結果は驚くべきものでした。「伸びる」と教師に思い込まされていた子どもたちは、他の子どもたちよりも実際に知能指数が伸びていたのです。とりわけ低学年で、その差は顕著でした。客観的には何の根拠もない「期待」が、現実の成長を生み出した。これが、彫刻が生命を得たギリシャ神話にちなんで名づけられた「ピグマリオン効果」です。

―「期待」は、言葉ではなく空気で伝わる

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。教師たちは、「君は伸びる」と言葉で伝えたわけではありません。鍵は、無意識の振る舞い——つまり空気にあります。

研究によれば、教師は期待をかけた子どもに対し、無意識のうちに、より温かい表情を向け、より多くの注意を払い、より難しい課題を与え、答えを待つ時間を長くし、より丁寧なフィードバックを返していました。本人も気づかないレベルの、まなざしや声のトーンや関わり方が、「あなたには可能性がある」という空気となって伝わり、子どもの自信と行動を変えていったのです。

恐ろしいのは、その逆もまた成り立つことです。教育心理学の研究では、低い期待をかけられた子どもに対して、大人は無意識に、すぐに諦め、失敗をより厳しく責め、成功を褒めず、フィードバックを省き、視線を合わせず、関わりを減らすことが示されています。「どうせこの子はできない」という空気は、本当にその子を「できない子」にしてしまう。期待が現実をつくるのは、良い方向にも、悪い方向にも、なのです。

―ある保険会社で起きた「期待の魔法」

これは子どもだけの話ではありません。職場でも、まったく同じことが起きます。

経営学者のJ・スターリング・リビングストンは、1969年に発表した古典的な論文の中で、米国メトロポリタン生命保険で実際に起きた事例を紹介しています。同社のある支店長アルフレッド・オーバーランダーは、優秀な営業員を選りすぐって一つのチームにまとめ、最も優れた管理職をつけ、高い期待をかけました。すると彼らは、期待に応えて飛躍的な成績を上げました。ここまでは、当然に思えます。

注目すべきは、その次です。彼は「平均的」とされた営業員たちにも、ある管理職をつけました。その管理職は、自分が平均的なリーダーだとも、部下が平均的な能力だとも、認めようとしませんでした。彼女は「あなたたちはトップチームに足りないのは経験だけで、潜在能力では負けていない」と語り続け、トップを追い越すよう鼓舞しました。結果、その「平均グループ」の生産性は、約40%も向上したのです。一方、誰からも期待されなかった最下層のグループは、低迷し、離職が相次ぎました。リビングストンはこう結論づけます。人は、上司が信じた能力の水準まで、伸びもすれば、落ちもする、と。

―「できない部下」という鏡に映っているもの

ここで、冒頭の経営者の言葉に戻りましょう。「あいつは何度言ってもダメだ」。この言葉は、社員についての客観的な事実ではないのかもしれません。それは、あなた自身が無意識につくり出してきた空気の、自己成就かもしれないのです。

期待していないから、簡単な仕事しか任せない。簡単な仕事しかしないから、成長の機会がない。成長しないから、ますます期待しなくなる——。この悪循環の出発点に、経営者自身の「まなざし」があります。そして大切なのは、この期待は、口先では取り繕えないということです。「君に期待しているよ」と言葉で言っても、任せる仕事、待つ時間、ミスへの反応といった無数の振る舞いが、本心を空気として漏らしてしまう。だからこそ、変えるべきは言葉ではなく、相手を見るまなざしそのものなのです。

―まず、経営者が「期待する人」になる

では、どうすればよいのか。第一に、社員を「欠点」ではなく「可能性」で語る習慣を持つこと。「ミスが多い人」ではなく「丁寧さを身につけている途中の人」と捉え直すだけで、関わり方の空気は変わります。第二に、少し背伸びの必要な仕事を、信じて任せてみること。人は、期待された役割を演じるうちに、本当にその役割にふさわしくなっていきます。とりわけ、入社して間もない時期にどんな期待をかけられるかが、その後を大きく左右します。

そしてもう一つ。あのメトロポリタン生命の管理職がそうであったように、経営者自身が「自分は平凡なリーダーではない」と信じることです。リーダーの自己評価は、部下への期待の高さに直結し、それが組織全体の空気となって伝わっていきます。

人は、期待されたとおりの人間になります。あなたの会社の社員は、あなたが心の奥で「このくらいだろう」と見積もった、まさにその姿になってはいないでしょうか。社員を変えたいなら、まず、あなたが社員に向けるまなざしから変える。期待という空気こそ、人を育てる、最も静かで強力な力なのです。

―勝田耕司