『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「持続的成長を手にする経営者」と「好況だけ伸びる経営者」の分水嶺~景気に左右されない組織をつくる、空気の強度設計~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

「好況のとき伸び、不況のとき縮む」という経営からの脱却

経営者として、最も苦しい瞬間はどこにあるでしょうか。

売上が下がったとき。優秀な社員が辞めたとき。大切な顧客を失ったとき——これらはすべて、深刻な苦しみです。しかし私が長年コンサルタントとして経営者と向き合ってきた中で、最も根深い苦しみは別のところにあると感じています。

それは「なぜうちは、好況のときは伸びるのに、不況になると縮んでしまうのか」という問いを、繰り返し抱き続けることです。

景気が良ければ売上が上がる。景気が悪くなれば売上が下がる。市場全体が拡大すれば自社も成長する。市場が収縮すれば自社も後退する——この「波乗り経営」から抜け出せない経営者は、景気という「外部の力」に自社の命運を委ね続けることになります。

一方、不況の波が業界を飲み込む中でも、むしろ市場シェアを伸ばし、優秀な人材を集め、顧客との関係を深め、不況が明けたときに競合との差を圧倒的に広げている会社があります。リーマンショック、コロナ禍——これらの深刻な危機においても、「あの会社は別次元の動きをしている」と言われた企業が、業種を問わず確かに存在しています。

この差は何か。資金力でしょうか。参入障壁の高さでしょうか。経営者の頭の良さでしょうか。

私の答えは明確です。この差を生み出しているのは、組織の「空気の強度」です。好況・不況を問わず持続的に成長する組織には、外部環境の変化に揺さぶられない「強い空気の構造」が設計されています。今回のコラムでは、この空気の強度設計の全体像を解明します。

「波乗り経営」に陥る会社の空気の共通点

好況のときは伸び、不況のときは縮む「波乗り経営」に陥っている会社の空気には、共通した特徴があります。この特徴を理解することが、脱出の第一歩です。

第一の特徴は「数字だけが語られる空気」です。会議で語られるのは、売上・利益・コスト・生産性という数字だけ。「なぜこの仕事をしているのか」「このお客様にとって、自分たちは何者か」「10年後、この会社はどんな存在でありたいか」——これらの問いが日常的に語られることはない。

この状態では、業績が良いときは「数字が良い」という事実だけで組織が動きます。しかし業績が悪くなったとき、「数字が悪い」という事実しか語れない組織は、「では自分たちはなぜここにいるのか」という問いに答えられません。この問いへの答えがない組織では、不況になると「沈む船から逃げる」ように人材が離れ、顧客との関係が薄れ、組織の力が急速に失われていきます。

第二の特徴は「外部依存の空気」です。「市場が拡大しているから成長できている」「景気が良いから業績が上がっている」という認識が組織に広がっているとき、社員は自分たちの成長を「外部環境のおかげ」として捉えます。この認識は、好況のときには大きな問題を生みません。しかし不況になったとき、「市場が縮小しているから仕方ない」「景気が悪いのだから業績が下がるのは当然だ」という諦めに変わります。外部依存の空気は、逆境における組織の能動的な対応力を奪います。

第三の特徴は「横のつながりが薄い空気」です。好況のときは、各部署・各個人が「自分のことだけ」をやっていても、全体として成長できます。しかし不況になったとき、横のつながりが薄い組織は「部署間の壁」が顕在化します。情報が共有されない、協力関係が生まれない、資源が分散する——これらが重なると、不況への対応力は著しく低下します。

「空気の強度」が高い組織の構造

では、景気に左右されない持続的成長を実現している組織の空気には、どんな構造があるのでしょうか。私が観察してきた中で、五つの構造的な要素が浮かび上がります。

構造の第一:「WHYの共有」による内部結束

持続的成長を実現している組織の最も根本的な空気の特徴は、「なぜこの組織は存在するのか」というWHYが、言葉だけでなく空気として全員に共有されていることです。

サイモン・シネックの研究が示す通り、WHYが共有されている組織では、外部環境が変化しても「では、このWHYを今の状況でどう実現するか」という問いが自然に生まれます。コロナ禍でリアルの接客ができなくなったとき、WHYが共有されていた会社は「このお客様のために、今できることは何か」を考え、デジタルを活用した新しい接点を素早くつくりました。WHYが共有されていなかった会社は「リアルの接客ができないから何もできない」という思考停止に陥りました。

同じ外部環境の変化でも、WHYが共有されている組織は「変化を問題として捉えるのではなく、WHYを実現するための新しい手段を探す機会として捉える」という空気があります。この空気が、不況における組織の能動的な対応力を生み出します。

伊那食品工業が48年間増収増益を続けた背景には、「いい会社をつくりましょう」というWHYが、創業者の塚越寛氏の言動を通じて組織の空気として全員に浸透していたことがあります。このWHYは「業績を上げること」ではなく「社員が幸せに働ける会社をつくること」でした。だからこそ、不況のときにも「業績のためにリストラをする」という選択肢が生まれませんでした。WHYと一致しない選択肢は、空気として排除される——この構造が、組織の一貫した判断を可能にし、長期的な信頼を生み出しました。

構造の第二:「心理的安全性の高さ」による情報の循環

持続的成長を実現している組織の第二の構造的特徴は、心理的安全性が高く、悪い情報も速やかに共有される空気があることです。

不況や危機の局面で、最も致命的なのは「経営者に悪い情報が届かない」ことです。現場では問題が起きているのに、「上に報告すると怒られる」「問題を持ち込むと評価が下がる」という空気があると、問題は隠され続けます。そして経営者が問題の深刻さに気づいたとき、すでに取り返しのつかない段階になっているということが、企業の危機において繰り返し起きています。

一方、心理的安全性が高い組織では、問題が小さいうちに共有されます。「こんな問題が起きている」「お客様からこんな声が来ている」「この方向性に疑問がある」——これらの情報が速やかに経営者に届くとき、経営者は早期に対処できます。危機への対応速度と精度が、心理的安全性の高さと直接連動しているのです。

ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授の研究によれば、医療の現場において、心理的安全性の高い病棟は低い病棟と比較してエラーの「発見率」が高いことが示されています。これは逆説的に見えますが、実はエラーが少ないのではなく、エラーを隠さずに報告する文化があるため、早期発見・早期対処が可能になっているのです。この構造は、経営組織においても同様に機能します。

構造の第三:「変化を喜ぶ空気」による適応力

持続的成長を実現している組織の第三の構造は、変化を「脅威」ではなく「機会」として捉える空気です。

多くの組織では、変化は「現状を乱すもの」として受け止められます。「今のやり方で十分うまくいっているのに、なぜ変える必要があるのか」という空気が、変化への適応を妨げます。

しかし持続的成長を実現している組織では、変化は「今のやり方をアップデートするチャンス」として受け止められます。「もっとよくできないか」「今の時代に合ったやり方はないか」「このお客様が本当に求めていることは何か」——これらの問いが日常的に飛び交う空気の中では、変化は歓迎されます。

この空気の違いは、経営者が変化に対してどんな姿勢を示しているかから生まれます。経営者が変化を恐れる姿を見せれば、組織も変化を恐れます。経営者が変化を楽しむ姿を見せれば、組織も変化を楽しむようになります。

ホンダが「ワイガヤ(ワイワイガヤガヤと自由に議論する)」という文化を通じて、技術や市場の変化に対して継続的にイノベーションを起こし続けてきた背景には、この「変化を喜ぶ空気」の徹底した設計があります。職位・部署・経験年数を問わず、誰もが「今のやり方への疑問」を自由に語れる空気が、ホンダという組織の時代を超えた革新力を支えてきたのです。

構造の第四:「信頼の貯金」による危機耐性

持続的成長を実現している組織の第四の構造は、平時から積み上げられた「信頼の貯金」が、危機のときに防波堤として機能することです。

スティーブン・M・R・コヴィーが著書『スピード・オブ・トラスト』で示した「信頼税」と「信頼配当」の概念——信頼が低い組織では意思決定のあらゆる場面に「不信のコスト」が上乗せされ、信頼が高い組織ではこのコストが削減される——は、平時においても重要ですが、危機においては特に決定的な差を生み出します。

経営者と社員の間に信頼がある組織では、不況のような困難な局面で「今、会社はこういう状況にある。一緒に乗り越えよう」という経営者の言葉が、社員の心に届きます。「この人が言うのだから、信じてついていこう」という感情が、組織の結束を生み出します。

一方、信頼の貯金が少ない組織では、経営者が同じ言葉を語っても「また経営者の都合のいい話だ」「結局、自分たちは道具として扱われている」という不信の空気が、組織の結束を妨げます。

2010年に経営破綻したJALを再建した稲盛和夫氏が最初に取り組んだのは、財務的なリストラではなく「信頼の構築」でした。無報酬での就任、現場への頻繁な訪問、社員一人ひとりとの対話——これらの行動が「この人は本気だ」「この人は信頼できる」という信頼の貯金を素早く積み上げ、破綻から2年8ヶ月という驚異的な速さでの再上場を可能にしました。危機における信頼の貯金の重要性を、JALの再建ほど明確に示した事例はないと思います。

構造の第五:「顧客との絆」による収益の安定

持続的成長を実現している組織の第五の構造は、顧客との間に「価格を超えた絆」が築かれていることです。

景気が悪くなったとき、顧客は「コスト削減」のために取引先を見直します。この見直しの対象になりやすいのは「代替可能な取引先」です。同じようなサービスを提供している会社の中から、より安い方を選ぶ——この判断は、顧客にとって合理的です。

しかし「なぜかあの会社でなければならない」という絆が形成されている取引先は、この見直しの対象になりません。「価格が多少高くても、あの会社に頼む理由がある」という感覚が、不況における顧客の離脱を防ぎます。

この「価格を超えた絆」は、どこから生まれるのでしょうか。商品の品質からも生まれますが、最も深い絆は「その会社との接点において感じた、人間的な温かさと誠実さ」から生まれます。問題が起きたとき一緒に解決しようとした姿勢、こちらの状況を理解した上での提案、記念日を覚えていた担当者の一言——これらの「空気の記憶」が、顧客の心に「あの会社は特別だ」という感覚を育てます。

この空気の記憶は、職場の空気が豊かな会社でしか生まれません。社員が「やらされ感」で仕事をしている会社では、この種の「一歩踏み込んだ行動」は生まれません。社員が「この顧客のために」という内発的な動機を持って働いている会社でのみ、顧客との絆が生まれます。

「空気の強度設計」を今日から始める

五つの構造を理解したとき、「持続的成長を手にする組織をつくるために、今日から何をすべきか」が見えてきます。

最初の一手は「WHYを語ること」です。今日の朝礼か会議で、「私たちはなぜこの事業をやっているのか」「このお客様に、私たちは何をもたらしているのか」を、経営者自身の言葉で語ってください。この語りかけを、月に一度ではなく、週に一度、できれば毎日の習慣にすること。WHYは語り続けることで、初めて空気として組織に浸透します。

次の一手は「悪い情報を歓迎すること」です。今週、社員が「実は問題があります」という報告を持ってきたとき、最初の言葉を「教えてくれてありがとう」にすることを決めてください。この反応を一度経験した社員は、次の問題も速やかに報告します。この積み重ねが、情報が循環する心理的安全性の高い空気をつくります。

三つ目の一手は「変化を自ら試みること」です。今月、いつもとは違うやり方を一つ試みてください。そしてその試みを社員に公言し、結果を正直に共有してください。うまくいけば「変化は良い結果をもたらす」という学習が起きます。うまくいかなくても「試みることは歓迎される」という学習が起きます。どちらの学習も、「変化を喜ぶ空気」の醸成に貢献します。

持続的成長を実現している組織は、好況のときに「今のうちに空気を整えておこう」という先手を打っています。不況になってから空気を変えようとしても、それは間に合わないことが多い。平時に積み上げた「空気の強度」が、不況の波に対する防波堤になり、むしろ不況を「競合との差を広げる機会」に変える力になります。

景気に左右されない持続的成長を手にしたいなら、今日から空気を整えることです。その積み重ねが、3年後・5年後・10年後に「あの会社は、なぜあの時期でも伸び続けたのか」と語られる会社をつくります。

空気の強度が、組織の強度を決めます。そしてその強度は、今日から設計できます。

―勝田耕司