こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
「ギスギス」は、なぜ起きるのか
「なんか最近、社内がギスギスしているんですよね」——この言葉を、私はコンサルタントとして何度聞いてきたでしょうか。業種も規模も異なる様々な会社の経営者から、判を押したように出てくるこのフレーズには、数字では表しにくい深刻な組織の問題が凝縮されています。
ギスギスしている職場には、共通した空気があります。会議で誰も発言しない。部署間で情報を共有しない。助け合わない。互いに監視し合っている。ちょっとした言葉のすれ違いが大きなトラブルに発展する。廊下で目が合っても挨拶がない。休憩室で社員が集まらない——。
多くの経営者はこの状態を「人間関係の問題」として捉えます。「あの二人が仲が悪い」「あの部署のリーダーが問題だ」という個人の問題として対処しようとします。しかし私の見立てでは、「ギスギス」は個人の問題ではなく、組織の空気の構造的な問題です。特定の人物を排除したり、異動させたりしても、根本的な空気が変わらない限り、別の場所で同じ問題が繰り返されます。ギスギスの正体を理解するためには、その背後にある「空気の構造」を見る目が必要です。
「ギスギス」の正体は、心理的安全性の欠如である
2012年から2015年にかけて、Googleは社内で「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる大規模な組織研究を実施しました。180以上のチームを分析した結果、パフォーマンスの高いチームに共通していた最大の要因は「心理的安全性(Psychological Safety)」であることが明らかになりました。心理的安全性とは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、「このチームでは、リスクを取った発言や行動をしても、罰せられたり、恥をかかされたりしないという信念が共有されている状態」のことです。
ギスギスした職場とは、心理的安全性が極めて低い職場です。「本音を言うと損をする」「失敗すると責められる」「意見を言うと否定される」「助けを求めると弱く見られる」——これらの感覚が組織全体に広がっているとき、社員は防衛本能を最優先にして行動します。自分を守るために情報を囲い込む。自分の評価を守るために他者を貶める。失敗を隠すために報告を遅らせる。これらの行動が積み重なると、職場は「競争と監視の場」になり、ギスギスした空気が充満します。
重要なのは、この状態は「悪意のある社員がいる」から生まれるのではないということです。むしろ、全員が「合理的な自己防衛」をしている結果として生まれます。つまりギスギスは、個人の問題ではなく「そうせざるを得ない空気」が生み出した、組織の構造問題です。
「成果主義の罠」がギスギスを加速する
職場のギスギスを加速させる要因のひとつに、「成果主義の罠」があります。成果を重視すること自体は、経営として正しい方向性です。しかし「個人の成果だけを評価する空気」が強まりすぎると、組織に深刻な副作用が生まれます。
個人の成果だけが評価される環境では、社員は合理的な判断として「仲間の成功より自分の成功を優先する」ようになります。仲間を助けることで自分の時間が削られ、自分の成果が下がれば評価も下がる——このインセンティブ構造の中で「助け合いましょう」と言っても、行動は変わりません。むしろ、「仲間の失敗が自分の相対的な評価を上げる」という構造が生まれ、職場は静かな競争と不信の場へと変質していきます。
MITスローン経営大学院のダニエル・キム教授が提唱した「成功の循環モデル」によれば、組織の成果は「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」という順番で生まれます。多くの企業が陥るのは、結果(数字)だけを追い求め、関係の質を犠牲にする「バッドサイクル」です。結果を出せというプレッシャーが強まると、社員は自分を守ることに必死になり、助け合いや正直な意見交換が失われる。その結果、思考の質が下がり、行動の質も落ち、最終的には結果の質まで落ちていく。ギスギスした職場は、このバッドサイクルの典型的な姿です。
「ギスギス」が採用・定着・業績に与えるダメージ
ギスギスした職場の空気は、経営の数字に対して複合的なダメージを与えます。まず採用への影響です。「あの会社は雰囲気が悪い」という評判は、口コミやSNSを通じて採用市場に広がります。求職者は企業の口コミサイトを参照し、現社員・元社員の声を重視します。ギスギスした空気が「働きにくい職場」として認識されると、優秀な人材ほど敬遠します。採用難を嘆く経営者の多くが、実は職場の空気を変えることで採用状況が劇的に改善するケースを、私は何度も目の当たりにしてきました。
次に定着への影響です。ギャラップ社の調査によれば、職場の人間関係の質はエンゲージメントの最大の決定要因のひとつです。ギスギスした空気の中で働き続けることは、慢性的なストレスをもたらします。慢性的なストレスは健康を損ない、仕事への意欲を奪い、「ここにいたくない」という感情を育てます。特に優秀な社員ほど他の選択肢を持っているため、ギスギスした職場から先に去っていきます。
そして業績への影響です。ギスギスした職場では、情報が共有されず、知恵が集まらず、部署間の連携が機能しません。個々の社員が能力を持っていても、組織としての総合力が発揮されません。さらに、ギスギスした空気はお客様にも伝わります。緊張した社員が接するお客様は、その緊張を感じ取り「なんか居心地が悪い」という印象を持ちます。これが顧客満足度の低下と離脱につながります。
ギスギスを「意図的に」解消する空気の設計
ギスギスした職場の空気を変えるためには、二つの方向からのアプローチが必要です。一つは「ギスギスを生み出している構造を変えること」、もう一つは「安全な空気を積極的につくること」です。構造を変えるためには、まず評価の設計を見直すことが有効です。個人の成果だけでなく、「チームへの貢献」「情報共有の質」「後輩への支援」といった協働に関わる行動を評価基準に組み込む。「助け合いは評価される」という空気を、評価制度という構造で裏付けることで、社員の行動インセンティブが変わります。
安全な空気を積極的につくるために、最も即効性が高いのは「経営者が最初に弱みを見せること」です。自分の失敗談を率直に語る。「自分もわからないことがある」と認める。「みんなの知恵を借りたい」と本音で言う——これらの行動が、「ここでは本音を言っていい」という空気を組織全体に広げます。
ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、事業の失敗を公の場で率直に語ることで知られています。「失敗を認められるリーダー」の姿が、組織に「失敗を隠さなくていい空気」を醸成します。ギスギスの根本原因のひとつが「失敗を責められる恐れ」である以上、リーダーが失敗を公言することは、ギスギス解消に向けた最も強力な一手のひとつです。
また、部署間の壁によるギスギスを解消するための実践として有効なのが、異なる部署のメンバーが共通の課題に取り組む「クロスファンクショナルな場」の設計です。共通の目標に向かって協力した体験は、「あの部署の人たちも、同じことを目指しているんだ」という相互理解を生み、部署間の不信感を溶かしていきます。
空気は、今日から変えられる
最後に、ギスギスに悩む経営者の皆さんへ問いかけたいことがあります。今日、あなたは職場で誰かに「ありがとう」と言いましたか? 社員の失敗に対して、責めるのではなく「次はどうするか」を一緒に考えましたか? 部下の意見を、最後まで遮らずに聞きましたか? 自分の迷いや失敗を、社員の前で率直に語りましたか?
ギスギスした空気は、ある日突然生まれたものではありません。長い時間をかけて積み上がった「信頼の欠如」の結果です。だからこそ、その解消にも時間がかかります。しかし変化は必ず、今日の小さな一手から始まります。
経営者が最初に安全な空気を生み出す存在になること。その一歩が、組織のギスギスを溶かし、信頼の空気を育て、採用力・定着率・業績を同時に改善していく、最も根本的な経営の実践です。
空気は、今日から変えられます。
―勝田耕司
