『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「採用基準」が組織の空気をつくる~誰を迎え入れるかが、10年後の会社を決める~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「スキルは高いのに、なぜかチームの空気が悪くなった」

採用に力を入れている経営者から、こんな悩みを聞くことがあります。「即戦力として採用した中途社員のスキルは確かに高い。でも、入社してから半年で、チームの空気が重くなった。その人自身が何か問題を起こしているわけじゃない。成果も出している。でも、なぜかチーム全体の雰囲気が変わった気がして……」

あるいは逆に、こんな声も聞きます。「この新入社員、スキルはまだまだだけれど、なぜか入ってきてからチームが明るくなった。周りに気を遣えて、感謝を忘れない。この子が入ってから、チームの空気が変わった気がする」この二つの事例が示すのは、採用において「スキルと経験」だけを基準にすることの限界です。

採用基準は、組織の空気を決定づける、最も根本的な経営判断のひとつです。誰を迎え入れるかが、その人が長く組織にいる限り、組織の空気に影響し続けます。10年間在籍した社員は、10年間、組織の空気をつくり続けます。採用の積み重ねが、10年後の会社の空気を決めているのです。

―「スキルフィット」と「カルチャーフィット」のバラン

採用において、候補者が組織に合うかどうかを評価する軸として、「スキルフィット」と「カルチャーフィット」という概念があります。スキルフィットとは、その人の技術・知識・経験が、ポジションの要件に合致しているかどうかです。カルチャーフィットとは、その人の価値観・行動様式・人との関わり方が、組織の文化や空気に合致しているかどうかです。

多くの採用現場では、スキルフィットを評価するための仕組み(スキルテスト、実績の確認、資格の確認)は整っていますが、カルチャーフィットを評価するための仕組みは曖昧なままです。その結果、「スキルは高いが、組織の空気を壊す人材」を採用してしまうケースが起きます。

HRコンサルタントのグレッグ・サベージは「スキルは採用できるが、態度は採用できない」という言葉を残しています。スキルは入社後に育てることができますが、その人が持つ根本的な価値観・他者への関わり方・仕事への姿勢は、採用後に大きく変えることは難しい。だからこそ、採用段階でのカルチャーフィットの評価が重要なのです。

―「空気を壊す採用」が組織にもたらすコスト

スキルは高くても、組織の空気に合わない人材を採用したときのコストは、採用コストをはるかに超えます。まず「既存社員への影響コスト」があります。組織の空気を重くする人材がチームに入ると、その影響は周囲に広がります。ギャラップ社の研究によれば、一人のエンゲージメントの低い社員(あるいは組織の空気を乱す社員)が、周囲の5〜7人のエンゲージメントを低下させることが示されています。

この影響が離職につながった場合、失われる人材の採用・育成コストは甚大です。「空気を壊す一人の採用」が、「空気が合っていた複数の既存社員の離職」を引き起こすという逆説が、現実の採用の現場で繰り返し起きています。次に「業績への影響コスト」があります。チームの空気が重くなると、情報共有が減り、協力関係が薄れ、創造性が低下します。これらは数字には出にくいですが、サービスの質と顧客満足度を通じて、確実に業績に影響します。

そして「採用ブランドへの影響コスト」があります。「あの会社に入ったが、空気が悪かった」という口コミが広がると、次の採用が難しくなります。採用の失敗が、次の採用をさらに困難にするという悪循環が生まれます。

―「カルチャーフィット」を採用基準に組み込む

では、カルチャーフィットを採用基準に組み込むとはどういうことでしょうか。まず前提として、「カルチャーフィット」は「自分たちに似た人を採ること」ではありません。これは誤解されやすい点です。似た価値観の人だけを集めると、組織は多様性を失い、思考が均質化し、変化への適応力が低下します。

正確に言えば、カルチャーフィットとは「組織が大切にしている本質的な価値観と行動原則に共鳴できるかどうか」です。見た目・経歴・性格が違っていても、「お客様を大切にする」「誠実に行動する」「仲間を助ける」という根本的な価値観を共有できる人材が、カルチャーフィットしている人材です。

この意味でのカルチャーフィットを評価するためには、まず「自社が本当に大切にしている価値観は何か」を言語化することが先決です。経営理念の言葉ではなく、「実際の職場で、どんな行動が称賛され、どんな行動が受け入れられないか」という具体的な行動規範として定義することが重要です。

―採用面接で「空気の適合性」を見極める

カルチャーフィットを採用面接で評価するための、具体的なアプローチがあります。

「行動ベースの質問」が最も有効です。「あなたはチームワークを大切にしますか」という質問は、誰でも「はい」と答えます。しかし「チームで困難な状況に直面したとき、あなたはどんな行動をとりましたか。具体的なエピソードを教えてください」という質問に対する答えは、その人の実際の行動パターンを示します。過去の具体的な行動は、未来の行動を最も正確に予測します。面接において、候補者の「言葉」ではなく「過去の具体的な行動」を引き出すことが、カルチャーフィットの評価において最も信頼性の高い方法です。

「逆質問の内容」も重要な評価材料です。候補者が面接官に対してどんな質問をするか——これは、その人が何を大切にしているかを示します。「御社の文化で、最も誇りに思うことは何ですか」「このポジションで成功している人の共通点は何ですか」——こうした質問をする候補者は、スキルだけでなく「どんな組織で働くか」を重視しています。一方、給与・休日・待遇だけを確認する候補者は、「条件のために働く」という動機が強い可能性があります。

「複数の社員との接触機会」を設けることも有効です。面接官だけでなく、実際にチームで働く社員と候補者が話す機会を設けることで、「この人と一緒に働きたいか」というチームの直感を採用判断に組み込めます。面接官には見えない「日常の空気との適合性」が、チームメンバーの直感には現れることがあります。

―「採用基準の一貫性」が組織の空気を守る

採用基準を明確に持つことの重要な効果のひとつが、「採用判断の一貫性」です。採用基準が曖昧な組織では、採用判断が面接官個人の「感覚」や「好み」に左右されます。ある採用担当者は「似た経歴の人を好む」、別の担当者は「元気な人を好む」——このような個人差が積み重なると、組織に入ってくる人材の価値観がバラバラになり、組織の空気が一貫性を失います。

一方、採用基準が明確で、全ての採用担当者が同じ軸で評価している組織では、「この会社に合った人材」が継続的に入ってきます。この一貫性が、時間をかけて組織の空気を強化し、「この会社らしさ」を深めていきます。パタゴニアは採用基準に「環境への強い関心と価値観の共有」を組み込んでいることで知られています。スキルよりも「なぜ環境問題に関心を持つのか」「どんな行動をとってきたか」を重視する採用基準が、長年にわたって「パタゴニアらしい社員」を継続的に生み出し、組織の空気の一貫性を保つ基盤になっています。

―「採用が空気をつくる」という長期的な視点

採用を「今必要な人材を確保すること」として短期的に捉えるか、「10年後の組織の空気をつくること」として長期的に捉えるか——この視点の違いが、採用戦略の質を根本から変えます。短期的な視点では、「今すぐ使えるスキルを持った人材を採ること」が最優先になります。しかし長期的な視点では、「今のスキルが多少不足していても、組織の空気に合った価値観を持つ人材を採ること」が重要になります。スキルは育てられますが、価値観は育てにくいからです。

スターバックスが採用において「コーヒーの知識よりも、人への関心」を優先することは有名です。コーヒーの淹れ方は教えられますが、「人を喜ばせたい」という根本的な姿勢は、採用で選ぶしかない——このスターバックスの哲学は、採用基準が組織の空気を守るという本質を正確に捉えています。

あなたの会社の採用基準は、「スキルと経験」だけを測っていませんか? 「この人が入ってきたとき、チームの空気はどう変わるか」という問いを、採用判断に組み込んでいますか? 10年後の会社の空気を、今日の採用でつくっているという意識がありますか?採用は、組織の空気への最も長期的な投資です。その投資の基準を明確にすることが、持続的に成長する組織の空気を守る、最も根本的な経営の仕事です。

―勝田耕司