『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「人を活かす経営」だけが、持続的成長を手にする~人材を「コスト」から「資産」に変える空気の転換~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「人件費」という言葉が、組織の空気を決めている

経営の数字を語る場で、社員のコストを指す言葉として「人件費」という言葉が使われます。費用対効果、コスト削減、人件費率——これらの言葉は、財務管理の文脈では正確な表現です。しかし私は長年、この「人件費」という言葉が組織の空気に与える影響を観察してきました。

「人件費を削減しよう」という言葉が経営会議で使われる会社と、「人への投資を最大化しよう」という言葉が使われる会社では、その後の組織の空気がまったく異なります。前者の会社では、社員は「自分はコストだ」という空気の中で仕事をします。後者の会社では、社員は「自分は投資対象だ」「自分の成長が会社の成長につながる」という空気の中で仕事をします。

言葉は、空気をつくります。そして空気は、人の行動をつくります。「人をコストとして見る空気」の中では、人はコスト相応の行動しかしません。「人を資産として見る空気」の中では、人は資産として成長し続けます。この空気の転換が、持続的成長の分岐点です。

―「人的資本経営」が注目される本質的な理由

近年、経営の世界で「人的資本経営」という言葉が急速に広まっています。2023年には日本でも上場企業を中心に人的資本情報の開示が義務化され、「人材をどう活かすか」が経営の重要課題として位置付けられるようになりました。しかしこの「人的資本経営」という言葉が表す本質は、開示義務やIR対応の話ではありません。

人的資本経営の本質は「人を資本(Capital)として捉える」という思想の転換です。資本とは、投資することで価値が増大するものです。設備投資、技術投資、ブランド投資——これらと同様に、人への投資が将来の価値を生み出すという考え方です。

一橋大学の伊藤邦雄教授が2020年に公表した「人材版伊藤レポート」は、人材を「コスト」ではなく「価値創造の源泉」として捉え直すことを日本企業に求めました。このレポートが多くの経営者に衝撃を与えたのは、「人を活かすことが業績に直結する」という事実を、データとして明示したからです。「人的資本経営」という言葉が広まる以前から、この真実を体現してきた会社が、時代を超えて成長し続けています。

―「人を活かす空気」が生む、三つの経営効果

人を資産として捉え、人を活かす空気をつくることで、組織に三つの重要な経営効果が生まれます。

第一の効果は「一人ひとりの生産性の最大化」です。人は、自分の強みが活かされる環境で最大のパフォーマンスを発揮します。ギャラップ社の調査によれば、自分の強みを毎日活かせていると感じている従業員は、そうでない従業員と比較して生産性が6倍高いことが示されています。「あなたの得意なことを、ここで存分に発揮してほしい」という空気が、個人の能力を引き出す最大のレバーです。

第二の効果は「離職コストの削減と定着による知識の蓄積」です。人を活かす空気のある組織は、離職率が低くなります。離職率が低い組織では、採用・育成コストが削減されるだけでなく、長く働いた社員が持つ「組織固有の知識・経験・顧客関係」が蓄積され続けます。この蓄積された知識は、財務諸表には表れませんが、組織の競争力の根幹をなす資産です。

第三の効果は「イノベーションの継続」です。人を活かす空気の中でこそ、社員は「もっとこうできる」「こんな新しい取り組みができる」という創造的なエネルギーを発揮します。「どうせ言っても聞いてもらえない」という空気の中ではアイデアは生まれません。「自分のアイデアが組織を変えるかもしれない」という空気の中でこそ、イノベーションの種が育ちます。

―「強みを見る目」が空気を変える

「人を活かす経営」を実践するうえで、経営者に最初に変えていただきたいことがあります。それは「社員を見る目」です。多くの経営者は、無意識のうちに「社員の弱みを見る目」を持っています。「あの社員はここが足りない」「この社員はこれができない」——弱みに焦点を当てた評価が日常になっている組織では、社員は「自分の足りない部分を隠すこと」にエネルギーを使います。足りない部分を隠すことに必死な社員は、強みを発揮する余裕を持てません。

一方、「社員の強みを見る目」を持つ経営者がいる組織では、社員は「自分の強みを発揮すること」にエネルギーを集中できます。強みを発揮している社員は、仕事に喜びを感じ、成長し、より大きな貢献をしようとします。ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマンは、著書『ポジティブ心理学の挑戦』の中で、「弱みを直すことは人を平均に近づけるが、強みを伸ばすことは人を卓越に近づける」と述べています。強みに焦点を当てた育成と評価が、個人と組織の両方を「平均」から「卓越」へと引き上げます。

―西村屋が100年以上続く理由

兵庫県城崎町の老舗旅館・西村屋は、創業165年の歴史にわたって高級旅館として地位を保ち続けています。観光業という、外部環境の変化に大きく左右される業種において、これほどの長期にわたって成長を続けることができた理由のひとつが「人を活かす経営の徹底」です。

西村屋では、社員一人ひとりの「持ち味」を大切にする文化が代々受け継がれています。接客が得意な社員、料理の知識が深い社員、空間演出のセンスがある社員——それぞれの強みが活かされる役割と環境をつくることで、「この旅館でしか生まれないサービス」が継続的に生み出されてきました。社長の西村総一郎氏は「社員が自分の仕事に誇りを持てる環境をつくることが、経営者の最も重要な仕事だ」と語っています。人を活かす空気が、165年のブランド力を支えてきた根幹です。

―「人を活かす空気」は、採用にも直結する

人を活かす空気をつくることは、既存社員のパフォーマンスを高めるだけでなく、採用力にも直接影響します。「あの会社に入ると、自分の強みが活かされる」「あの会社では、自分らしく働ける」という評判が広がると、その会社には「自分の強みを活かしたい」という意欲の高い人材が集まってきます。意欲の高い人材が集まることで、組織の空気がさらに活性化し、その空気がさらに良い人材を引き寄せる——採用の好循環が生まれます。

逆に「あの会社では、駒として使われるだけだ」という評判が広がると、意欲の高い人材は集まりません。集まるのは「とにかく就職できればいい」という受け身の人材だけになり、組織の活力は低下の一途を辿ります。採用市場における会社の評判は、採用活動の巧拙ではなく、「実際に働いている社員が、どんな空気の中にいるか」によって決まります。

―「人を活かす」ための、経営者の具体的な一手

「人を活かす経営」を実践するために、経営者が今日から始められる具体的な行動があります。それは「社員一人ひとりと、仕事の話ではなく『あなた自身の話』をする時間をつくること」です。

「最近、仕事でどんなことが面白かったですか」「自分の得意なことを、もっと活かせていると感じる場面はありますか」「今の仕事で、やっていて一番充実感を感じる瞬間はいつですか」——こうした問いかけを通じた対話が、経営者に「この社員の強みはここにある」という発見をもたらします。

そしてその発見を、仕事の役割や機会の設計に活かすこと。「あなたのそのセンス、このプロジェクトで活かしてほしい」「あなたが得意な○○を、チームのためにもっと発揮してほしい」——この一言が、社員の「自分はここで必要とされている」という感覚を強化し、定着と成長と業績向上の連鎖を生み出します。

あなたの会社で、最も「活かされていない強み」を持っている社員は誰ですか? その社員の強みに、あなたは気づいていますか? そしてその強みを活かす機会を、意図的につくっていますか?

人を活かす空気は、制度から生まれるのではありません。経営者が「あなたの強みを見ている」というメッセージを、日常の中で伝え続けることから生まれます。その空気が組織に満ちたとき、人はコストではなく資産として輝き始め、その輝きが持続的な成長を生み出していきます。

―勝田耕司