こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「うちの会社、なんか止まっている気がする」
業績が極端に悪いわけではない。社員も大きな不満を持っているわけではない。お客様からのクレームも少ない。でも、なんか止まっている——。こう感じている経営者は、意外に多くいます。「毎年同じことを繰り返している」「新しいことを試みようとすると、なんとなく重い空気になる」「3年前と比べて、何かが変わった気がしない」「会議に出ても、去年と同じ話題ばかり」——。
この「停滞感」は、数字には現れません。売上が横ばいであれば「まあ維持できている」と言えます。離職が少なければ「安定している」と言えます。クレームが少なければ「品質は保たれている」と言えます。しかし経営者の直感は、確かに何かを感じ取っています。数字の裏側で、組織の「代謝」が落ちていることを。
組織の代謝とは何か。それは、組織が外部の変化を取り込み、内部で新陳代謝を起こし、より良い状態に進化し続ける力のことです。この代謝を決めるのは、戦略でも資金でも人材の数でもありません。組織に流れる「空気」です。
―「成長の空気」と「停滞の空気」は何が違うか
成長し続ける組織と、停滞していく組織の空気の違いを、私は長年観察してきました。その差は、ひとつの問いへの組織の反応に最もはっきりと現れます。その問いとは「今のやり方で、本当にいいのか」という問いです。
成長する組織では、この問いが日常的に、安全に、発せられます。「今の仕組みをもっと良くできないか」「お客様が本当に求めているのは何か」「競合はどう動いているか」——こうした問いが、会議でも廊下での会話でも、自然に飛び交います。そしてその問いが新しい試みを生み、試みが学びを生み、学びが次の成長につながります。
停滞する組織では、この問いが「空気的に」禁じられています。「今まではこうだったから」「変えると混乱する」「うまくいっているのになぜ変える必要があるのか」——こうした言葉が、変化への問いを封じます。この封じる空気が、組織の代謝を止めていきます。
経営学者のクレイトン・クリステンセンは、著書『イノベーションのジレンマ』の中で、優良企業が破壊的イノベーションによって市場から駆逐されるプロセスを分析しています。その根本原因のひとつが「今うまくいっているからこそ、変化への問いを封じる組織の空気」です。
成功体験が組織の空気を固め、固まった空気が変化への感受性を失わせ、やがて市場の変化に対応できなくなる——。停滞は、ある日突然やってくるのではありません。空気が少しずつ固まっていく過程で、じわじわと進行します。
―組織の「代謝」を決める四つの空気
組織の代謝を高める空気には、四つの重要な要素があります。
第一は「問いを歓迎する空気」です。現状への問いかけが、批判や不満として受け取られるのではなく、「より良くするための貢献」として歓迎される空気です。「なぜこうなっているのか」「別のやり方はないか」という問いが、歓迎される組織では、問題が早期に発見され、改善が継続的に行われます。
第二は「試みを許す空気」です。新しいことを試みることが、「失敗のリスク」としてではなく、「成長の機会」として捉えられる空気です。小さな実験が積み重なることで、組織は外部環境の変化に対応するための「適応能力」を高めていきます。
第三は「学びを共有する空気」です。個人が得た知見・失敗からの学び・顧客からの気づきが、組織全体の「共有知」として蓄積される空気です。個人の学びが組織の学びになるとき、組織の代謝は飛躍的に高まります。
第四は「外の世界を取り込む空気」です。組織の外——市場、顧客、競合、他業種——からの情報や刺激を積極的に取り込もうとする空気です。内向きになった組織は、外部の変化に鈍感になり、やがて「自分たちのやり方が正解だ」という閉じた確信に支配されます。
この四つの空気が組織に満ちているとき、組織は自己革新を続け、成長の軌道に乗り続けます。
―「現状維持バイアス」という、停滞の根源
なぜ組織は停滞していくのか。その根源のひとつに、人間の脳に組み込まれた「現状維持バイアス」があります。
行動経済学の研究において、人間は「現状を変えること」に対して、変化によって得られる利益よりも、変化によって失うかもしれない損失をより大きく感じるという傾向が一貫して示されています。これを「損失回避性」と呼びます。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの研究では、損失から生まれる不快感は、同等の利益から生まれる喜びの約2倍の強さを持つことが示されています。
この現状維持バイアスは、個人だけでなく組織全体にも働きます。組織が大きくなり、成功体験が積み重なるほど、「変えることで失うもの」への恐れが「変えることで得られるもの」への期待を上回るようになります。この集団的な現状維持バイアスが、組織の空気を「変化を拒む方向」に固めていきます。
成長する組織とは、この現状維持バイアスに抗う空気を、意図的に維持し続けている組織です。
―リクルートが「卒業文化」で代謝を高める理由
株式会社リクルートホールディングスは、社員が一定期間で独立・転職していく「卒業文化」で知られています。多くの企業が「いかに社員を引き止めるか」に力を注ぐ中、リクルートは社員が「いつかここを卒業して自分の道を歩む」という前提で組織を設計しています。
これは一見、定着率を下げる文化のように見えます。しかし実際には、この文化がリクルートの組織の代謝を高める重要な役割を果たしています。「いつか卒業する」という前提があるからこそ、社員は在籍期間中に全力で成長しようとします。
「この会社にいる間に、最大限学び、貢献する」という意識が、組織全体の活力と創造性を高めます。また、卒業した社員が起業家や各業界のリーダーとして活躍することで、リクルートの「人材輩出企業」としての評判が高まり、次の優秀な人材を引き寄せます。
さらに、定期的に新しい人材が入ってくることで、組織に「外の空気」が継続的に注入されます。新しい視点、新しい経験、新しい問いかけが、組織の「内向き化」を防ぎ、代謝を高め続けます。
リクルートの事例は、「定着させること」だけが人材戦略ではないことを示しています。組織の代謝を高める空気の設計が、長期的な成長を支える本質的な戦略です。
―「停滞のサイン」を早期に発見する
組織が停滞し始めているサインは、業績が落ちる前に、空気として現れます。会議で「前回もそういう話が出ましたが、結局変わりませんでしたよね」という発言が増えてきたとき。新しいアイデアを提案した社員が、数週間後に「あの提案、どうなりましたか」と聞いても誰も覚えていないとき。
お客様の声が「そういうご意見もあるんですね」で終わり、改善につながらないとき。社員が外部の勉強会やセミナーに参加したがらなくなったとき——。これらは、組織の代謝が落ち始めているサインです。数字には現れないが、空気として確実に感じ取れる変化です。
このサインを早期に発見し、「なぜこの空気が生まれているのか」を問い直すことが、停滞を成長に転換するための、経営者の最も重要な仕事のひとつです。
―「成長の空気」は、小さな一手から生まれる
今月、あなたの会社で「新しく試みたこと」は何かありましたか? 今週の会議で、「今のやり方で本当にいいのか」という問いが、誰かの口から出ましたか? 最近、社員が外部から持ち帰った学びや気づきを、組織全体で共有する機会はありましたか?
成長の空気をつくる最初の一手は、壮大な変革計画である必要はありません。「今週、ひとつだけ、いつもと違うことをやってみよう」という小さな問いかけから始められます。その小さな試みが組織に「変化は怖いものではない」という空気を生み出し、次の試みを呼び、やがて「常に少しずつ良くなっていく」という組織の代謝が生まれます。
成長する会社と停滞する会社の分岐点は、ある日突然やってくるのではありません。毎日の小さな選択の積み重ねが、組織の空気をつくり、その空気が組織の代謝を決め、その代謝が3年後・5年後の成長曲線を描きます。
今日、あなたの会社の空気は、成長に向かっていますか? それとも、静かに停滞に向かっていますか、、、その答えは、今日の職場の空気の中に、すでに宿っています。
―勝田耕司
