こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「この部屋に入ると、なぜか本音が言える」
経営コンサルタントとして様々な会社の会議室に入ってきた私が、長年抱いてきた確信があります。会議室に入った瞬間、その会社の組織の空気がわかる、ということです。蛍光灯の白い光に照らされた、白い壁、白いテーブル、白い椅子。窓がなく、外の空気が入ってこない密室。壁には前年度の業績グラフと、色褪せた経営理念の額縁。こういう部屋で行われる会議は、判を押したように「報告だけで終わる会議」「誰も本音を言わない会議」になりがちです。
一方、木目調の家具が置かれ、自然光が差し込み、植物が配置され、コーヒーの香りが漂う部屋。そこでは、初対面の人同士でも不思議と打ち解け、普段は口が重い人が本音を話し始めることがあります。空間が、人の行動と感情に影響を与えている。これは偶然でも気のせいでもありません。「場の力」という、非常に実証的なメカニズムです。
―環境が「行動を決める」という科学的事実
人間の行動は「意志」によって決まると、私たちは信じがちです。「やる気があれば何でもできる」「強い意志があれば環境は関係ない」という考え方です。しかし行動科学は、これを明確に否定しています。スタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルドーが1971年に行った「スタンフォード監獄実験」は、普通の学生が「看守」と「囚人」の役割を与えられた環境に置かれると、わずか数日で本当に看守的・囚人的な行動をとり始めるという、衝撃的な結果を示しました。人間の行動は、内側の意志よりも、外側の「環境・状況・場」によって大きく規定されるということです。
また、行動経済学者リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンが著書『NUDGE』で提唱した「選択アーキテクチャ」の概念は、環境の設計が人々の選択と行動を誘導できることを示しています。カフェテリアで健康的な食品を目の高さに配置するだけで、人々の食選択が変わる。階段の入口をエレベーターよりも魅力的にデザインするだけで、階段を使う人が増える——。これは職場の空間設計にも直接応用できます。職場の空間をどう設計するかが、そこで働く人の行動・感情・創造性・コミュニケーションを、意図せずとも誘導しているのです。
―「場」が持つ三つの力
経営学者の伊丹敬之氏は、著書『場のマネジメント』の中で、組織における「場」の重要性を論じています。伊丹氏は、場を「人々が参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、共通の体験をする、その状況の枠組み」と定義しています。
場には三つの力があります。
第一は「情報共有の力」です。同じ場にいることで、言語化されない情報——表情、雰囲気、感情状態——が自然に共有されます。リモートワークが普及した時代に「やはり対面でないと伝わらないことがある」と感じる経営者が多いのは、この場の情報共有力が、画面越しでは大幅に低下するからです。
第二は「共感の力」です。同じ場を共有することで、人は互いの感情状態に同調しやすくなります。これは前述の「情動感染」のメカニズムですが、同じ空間にいるほど、この同調は強く起きます。会議室で全員が同じ方向を向いて座っているより、円形に向き合って座っている方が、感情の共鳴が起きやすいのはこのためです。
第三は「創造の力」です。適切な場の設計は、そこにいる人の創造性を高めます。開放的な空間、適度な雑音、偶発的な出会いが生まれる動線——これらは「セレンディピティ(思いがけない発見)」を生み出し、イノベーションの源泉になります。
―Googleが「場の設計」に投資し続ける理由
世界で最も革新的な企業のひとつとされるGoogleは、オフィス空間の設計に莫大な投資を続けていることで知られています。Googleのオフィスには、色鮮やかなオープンスペース、異なる部署の社員が偶然出会える「コリジョンスペース(衝突の場)」、個人が集中できる静かなポッド、チームが自由に使えるクリエイティブルーム——様々な「場」が意図的に設計されています。これは従業員の「福利厚生」のためだけではありません。Googleが重視しているのは、異なる部署・異なる専門性を持つ社員が「偶然出会い、偶然話し始める」ことで生まれるイノベーションです。
Google社内の研究によれば、同社の重要なイノベーションの多くは、「計画された会議」ではなく、「偶発的な対話」から生まれているといいます。その偶発的な対話を意図的に生み出すために、空間が設計されているのです。場の設計は、「快適さ」の問題ではありません。「何が生まれるか」を決定する、経営上の重要な戦略です。
―「会議室」がチームの運命を決める
多くの日本企業において、最も「場の設計」が軽視されているのが会議室です。会議室は、組織の意思決定・創造・対話が集中して行われる場です。つまり、会社の未来が最も凝縮して生まれる場、とも言えます。にもかかわらず、多くの会社の会議室は、「とにかく人が入れればいい」という最低限の発想で設計されています。
心理学の研究では、空間の「天井の高さ」が思考のスタイルに影響することが示されています。ミネソタ大学のジョアン・マイヤーズ=レヴィらの研究によれば、天井が高い空間では「抽象的・創造的な思考」が促進され、天井が低い空間では「具体的・詳細な思考」が活性化されるといいます。
つまり、創造的なブレインストーミングには天井の高い開放的な空間が適しており、細部の詰めや数字の確認には天井の低い集中できる空間が適している——会議の目的に応じて、空間を使い分けることが、会議の質を高める重要な要素です。
また、座席の配置も、会議の空気を大きく左右します。縦長のテーブルで社長が上座に座り、部下が両脇に並ぶ配置は、「権力の非対称性」を空間で可視化し、部下の発言を無意識に抑制します。一方、円形や正方形のテーブルで全員が平等な位置に座る配置は、「ここでは誰の意見も同等だ」という空気を物理的につくり出します。
―「場の温度」が、人の本音を引き出す
物理的な温度も、人の行動に影響します。エール大学とコロラド大学の研究者たちが行った実験では、温かい飲み物(ホットコーヒー)を持った人は、冷たい飲み物を持った人よりも、初対面の相手を「温かい人物だ」と評価しやすく、より協力的な行動を取りやすいことが示されました。身体で感じる物理的な「温かさ」が、心理的な「温かさ」の感覚を誘発するのです。
これを会議室に応用するなら、重要な対話が行われる場には、温かい飲み物を用意することが、本音の対話を促進する小さな設計になりえます。さらに、香りも空気感に影響します。環境心理学の研究では、柑橘系の香りが前向きな感情と創造性を高め、ラベンダーの香りが緊張を和らげることが示されています。オフィスや会議室の香りを意識的に設計することは、「些細なこと」のようで、実は場の空気感に確実な影響を与えます。
場の物理的な要素——温度、光、色、香り、音、家具の配置——のすべてが、そこにいる人の感情・思考・行動に影響しています。これらを「偶然に任せる」か「意図的に設計する」かの違いが、その場で生まれるものの質を大きく変えます。
―「場の空気」を意図的につくった会社の変化
大阪に本社を置くソフトウェア開発会社・サイボウズ株式会社は、オフィスの空間設計を通じて組織の空気を意図的に変えた事例として知られています。同社は以前、部署ごとに固定した座席が割り当てられた、典型的なオフィスレイアウトを採用していました。しかし、部署間の壁が高く、情報が共有されにくい、という課題がありました。
そこで導入したのが「フリーアドレス制」と「多様な場の設計」です。固定席をなくし、その日の仕事内容や気分に応じて座る場所を選べるようにした。集中作業用のブース、チームでの議論用のオープンスペース、リラックスしながら話せるソファエリア——様々な「場」を用意することで、自然に異なる部署の社員が混じり合い、偶発的な対話が生まれるようになりました。
代表取締役社長・青野慶久氏は、この空間の変化が「働き方の多様性」というサイボウズの文化を物理的に体現するものだと述べています。価値観が空間に宿ったとき、その空間にいる人々の行動は自然にその価値観に近づいていく——場の設計が文化をつくる、ということの好例です。
―「場を設計する」という経営者の新しい視点
あなたの会社の「場」は、今、どんな空気を生み出していますか?社員が毎日過ごすオフィスの空気感。お客様を迎える受付や応接室の空気感。会議が行われる部屋の空気感。社員が休憩する場所の空気感——これらはすべて、意図的に設計できます。
大規模なオフィス改装は必要ありません。今日からできる小さな変化があります。会議室の座席配置を変える。観葉植物を一鉢置く。会議の前にコーヒーを用意する。壁に貼られた色褪せた資料を外す。窓のブラインドを開けて自然光を入れる。
これらの小さな変化が、その場に漂う空気を変え、そこで行われる対話の質を変え、生まれる意思決定の質を変えていきます。場の力を使いこなす経営者は、お金をかけずに組織の空気を変えることができます。なぜなら、場の設計とは「物理的な投資」ではなく、「意識と意図の投資」だからです。
あなたの会社の空気は、今日、どんな場から生まれていますか?
―勝田耕司
