『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「なぜかあの会社に頼みたくなる」の正体~選ばれ続ける会社が持つ、空気のブランド力~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「価格でも品質でもないのに、なぜかあそこに頼む」

ビジネスの現場で、こんな経験をしたことはありませんか。複数の業者から見積もりを取った。品質はどこも似たり寄ったり。価格はむしろ他社の方が安い。納期も条件も大差ない。それなのに、「なんとなくあの会社に頼みたい」という感覚が残って、結局その会社に発注してしまった——。あるいは逆に、自社が「なぜかあの会社に負けた」という経験。スペックでは勝っていたはずなのに、価格でも戦えていたはずなのに、なぜか選ばれなかった。

この「なんとなく」の正体は何でしょうか。多くの経営者はこれを「担当者の相性」「長年の付き合い」「たまたま」として片付けます。しかし私はこれを、「空気のブランド力」と呼んでいます。そしてこれは、偶然でも運でもなく、意図的に設計できるものです。

―「ブランド」の本質は、記憶の中の「空気感」である

ブランドとは何か。多くの人は「ロゴ」「色」「キャッチコピー」「知名度」といったものを思い浮かべます。しかし、ブランド論の第一人者であるデイビッド・アーカーは、著書『ブランド・エクイティ戦略』の中で、ブランドの本質は「消費者の記憶の中に存在するイメージと感情の総体」だと定義しています。つまりブランドとは、看板やロゴの話ではありません。「その会社・その商品・そのサービスに接したとき、人の心の中に呼び起こされる感覚」の話です。

そしてこの「感覚」の中核にあるのは、論理的な情報ではなく、感情的な「空気感」です。「なんかあそこは信頼できる」「なんかあそこに頼むと安心する」「なんかあそこは違う」——これらはすべて、その会社の空気感が顧客の記憶に蓄積された結果です。

ハーバード・ビジネス・スクールのジェラルド・ザルトマン教授は、消費者の購買決定の約95%は無意識(感情・直感・記憶)によって行われると述べています。スペックの比較や価格の検討は、すでに感情的に決まった答えを「正当化する」プロセスに過ぎないことがほとんどです。

「なんかあの会社に頼みたい」という感覚は、気まぐれでも偶然でもありません。その会社が長年にわたって積み上げてきた「空気の記憶」が、顧客の無意識に蓄積された結果です。

―空気のブランド力は、接点のすべてで形成される

では、「空気のブランド力」はどのように形成されるのでしょうか。答えは、顧客との「すべての接点」です。電話に出たときの声のトーン。メールの返信の速さと文体。担当者が名刺を差し出すときの所作。打ち合わせ室に通されたときの空間の清潔感と温かさ。プレゼン資料の丁寧さ。トラブルが起きたときの対応の誠実さ。担当者が変わったときの引き継ぎの質——。これらのひとつひとつは、「些細なこと」のように見えます。しかしその些細なことの積み重ねが、顧客の記憶の中に「あの会社の空気感」として蓄積されていきます。

マーケティング学者のレナード・ベリーとA・パラスラマンは、サービス品質研究の中で「顧客は、サービスの技術的な品質(何をしてもらったか)よりも、機能的な品質(どのようにしてもらったか)をより強く記憶に残す」ことを示しています。つまり、「何をしてくれたか」よりも「どんな空気でしてくれたか」の方が、顧客の記憶に深く刻まれるのです。

―「小山薫堂さんが語る、空気のブランド」

放送作家・脚本家として知られる小山薫堂氏は、ブランドと「おもてなし」の関係について、様々な場で語ってきました。小山氏が手掛けた熊本県のPR「くまモン」や、数多くのブランドプロデュースで一貫して追求してきたのは、「見た人・触れた人が、思わず誰かに話したくなる空気感をつくること」です。

小山氏はある講演でこう述べています。「最高のブランドとは、説明しなくても伝わる『何か』を持っているものだ。その『何か』は、言葉でも映像でもなく、その場に漂う空気感から生まれる」と。

これは企業ブランドにも同様に当てはまります。「説明しなくても伝わる何か」を持っている会社は、選ばれ続けます。その「何か」の正体が、積み上げられた空気感です。そしてその空気感は、CMや広告ではなく、日々の顧客との接点から生まれています。

―「選ばれ続ける会社」の空気には、共通の構造がある

長年にわたって顧客から選ばれ続けている会社には、空気の構造に共通点があります。

1つ目は「一貫性」です。担当者が変わっても、時代が変わっても、その会社に接したときに感じる「空気感」が変わらない。この一貫性が、顧客に「安心感」と「信頼感」を与えます。

老舗企業が長年にわたって顧客に選ばれ続けるのは、製品の品質だけでなく、この「空気の一貫性」によるところが大きい。創業100年以上の歴史を持つ京都の老舗和菓子店・とらやは、「上質なものを丁寧に」という空気を、店舗デザイン・包装・接客・商品開発のすべてにわたって一貫させてきました。この一貫した空気感が、世代を超えて「とらやといえば」という顧客の記憶を形成し、選ばれ続ける理由になっています。

2つ目は「誠実さの空気」です。都合の悪いことも正直に伝える。できないことはできないと言う。ミスをしたときに言い訳をしない。これらは「誠実さ」の表れですが、同時に非常に強力な「空気のブランド資産」でもあります。

人間は、「この人(この会社)は、自分に都合の悪いことも正直に言ってくれる」という体験をすると、強烈な信頼感を覚えます。心理学でいう「損失を認める開示の効果」です。弱点や失敗を適切に開示することで、かえって信頼が高まる。この誠実さの空気が蓄積されると、「あの会社は信用できる」という評判が口コミで広がっていきます。

3つ目は「関心の空気」です。顧客を「取引先」としてではなく、「人」として関心を持っている会社の空気は、顧客に伝わります。「前回話していたプロジェクト、その後どうなりましたか」「先日おっしゃっていた課題、少し考えてみたんですが」——こうした言葉は、マニュアルから生まれるものではありません。顧客への本物の関心から生まれます。

そしてこの「関心の空気」は、職場の中に「お客様の話をすることが当たり前だ」という文化があってこそ、自然に生まれてきます。

―「空気のブランド力」が、価格競争から解放する

「空気のブランド力」が蓄積された会社には、ひとつの大きな恩恵があります。それは、価格競争から解放されるということです。「なんかあの会社に頼みたい」という感覚を持っている顧客は、多少価格が高くても、他社に乗り換えません。なぜなら、その「感覚」は他社では手に入らないからです。

経済学者のマイケル・ポーターは、競争戦略の基本として「コストリーダーシップ(価格で勝つ)」か「差別化(独自の価値で勝つ)」かを選ぶ必要があると述べています。しかし多くの中小企業は、差別化の手段として「スペック」「機能」「技術」を追い求め、気づけば似たような企業との価格競争に引き込まれています。

「空気のブランド力」による差別化は、スペックや機能による差別化とは根本的に異なります。なぜなら、スペックや機能は模倣できますが、長年にわたって積み上げられた「空気感の記憶」は、模倣できないからです。

これが、「空気のブランド力」が経営における最強の差別化戦略である理由です。

―「空気のブランド力」は、今日から積み上げられる

最後に、経営者の皆さんへの問いかけです。あなたの会社に初めて接した人は、どんな「空気感」を感じ取っていると思いますか?電話の第一声。ウェブサイトの文体。オフィスの入口。担当者の第一印象——。これらのひとつひとつが、「あなたの会社の空気感」として顧客の記憶に蓄積されていきます。

空気のブランド力は、大企業だけのものではありません。むしろ、意思決定のスピードが速く、経営者の想いが直接現場に届きやすい中小企業こそ、空気のブランド力を意図的に設計しやすい立場にあります。

「なんかあの会社に頼みたい」と言われる会社になること。それは広告費でも、派手なブランディングでも実現できません。日々の顧客との接点において、どんな空気を届け続けるか——その積み重ねの先にだけ、本物のブランド力は生まれます。

選ばれ続ける会社の空気は、今日から、意図的につくり始めることができます。

―勝田耕司