『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「理想の空気」を意図的につくれるとしたら、あなたの経営は何が変わるか――採用難・離職・売上停滞・承継不安、すべての根っこにある「一つの課題」



こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。

今回は、私がコンサルティングの現場で経営者の皆さんから繰り返し聞かされてきた「切実な悩み」を起点に、話を進めさせてください。

― 経営者の「痛み」は、実はすべてつながっている

全国の経営者と向き合ってきた20年以上の現場経験の中で、私は同じ悩みを、業種も規模も違う経営者から何度も聞いてきました。「求人を出しても、いい人が来ない。来ても、すぐ辞める」「売上は何とか維持しているが、数年前から伸びが止まった。正直、何が原因なのかわからない」「自分がいないと何も回らない。幹部に任せようとしても、なぜか空回りする」「いつかは事業を継がせたいと思っているが、自分がいなくなったとき、この会社は大丈夫なのかと夜も眠れない」。

これらの悩みは、一見すると別々の問題に見えます。採用の問題、マーケティングの問題、組織の問題、事業承継の問題。だから多くの経営者は、採用コンサルに相談し、広告会社に集客を頼み、人事制度を見直し、M&Aアドバイザーに話を聞きに行きます。しかし、数百万円を使い、時間と労力を費やしても、根本は変わらない。なぜなら、これらの課題はすべて、「一つの根っこ」から生えているからです。

その根っこの正体が、「空気」です。採用できないのは、求人票の書き方の問題ではありません。あなたの会社が発している「空気の魅力のなさ」が原因です。人が定着しないのは、給与や待遇の問題だけではありません。その職場に「ここにいたい」と思わせる空気がないからです。売上が伸び悩むのは、商品力やマーケティング力の問題だけではありません。

お客様があなたの会社に触れたとき「また来たい、また頼みたい」という感情を呼び起こす空気が、薄くなっているからです。幹部が育たないのは、人材の質の問題ではありません。「自分が主役で動いていい」という空気が、組織の中に流れていないからです。承継が不安なのは、後継者の能力の問題ではありません。引き継ぐべき「目に見えない経営の核」が、まだ言語化も仕組み化もされていないからです。

― なぜ「空気」が問題の根っこなのか――行動経済学と組織神経科学が示す衝撃の事実

「空気が問題だと言われても、そんな曖昧なものをどうすればいいのか」そう感じた経営者のために、まず科学的根拠をお伝えします。2019年、Google社の組織研究チームが発表した「Project Aristotle(プロジェクト・アリストテレス)」は、全社横断で180以上のチームを対象に、「高い成果を出すチームの共通要因」を5年かけて調査した大規模研究です。その結論は、多くの経営者の予想を裏切るものでした。チームの生産性を最も強く左右する要因は、メンバーの学歴でも、個人のスキルでも、インセンティブ制度でもありませんでした。それは「このチームで、安心して本音を言える」という「場の空気の質」でした。

Googleはこれを心理的安全性(Psychological Safety)と名付けましたが、本質は「空気の設計」の問題です。高い成果を出したチームでは、メンバーが発言回数においてほぼ均等に話す傾向があり、相手の感情を読む「社会的感受性」が高い空気が流れていました。逆に低成果のチームでは、発言が特定メンバーに偏り、沈黙と同調の空気が支配していました。Googleという世界最高峰の知的集団が5年をかけて証明したのは、「空気は偶然ではなく、設計するもの」という事実だったのです。

さらに、組織神経科学の分野でも注目すべき研究が蓄積されています。米クレアモント大学院大学のポール・ザック教授は、神経経済学の観点から「信頼の空気」が脳に与える影響を研究し、2017年にハーバード・ビジネス・レビューで発表しました。ザック教授の研究によれば、「信頼感の高い組織文化(空気)」の中で働く人は、信頼感の低い組織の人と比べて、エネルギーが74%高く、ストレスが29%低く、生産性が50%高く、離職意向が13%低いというデータが出ています。注目すべきは、この「信頼の空気」を醸成する最大の要因が、給与や福利厚生ではなく、「経営者と上司の誠実な振る舞い」だったという点です。つまり、組織の空気は、経営者の「在り方」が直接つくり出している。そして、その空気が、業績のほぼすべてを決定している。これは、神経科学が証明した、経営にとって最も重要な法則の一つです。

― もし「理想の空気」を意図的につくれるとしたら

ここで、一つ想像していただきたいのです。もし、あなたが思い描く「理想の空気」を、感性や運に頼ることなく、仕組みとして意図的につくれるとしたら、何が変わるでしょうか。求人票を出す前に、あなたの会社の「空気の魅力」が先に伝わり、「ここで働きたい」と思う人が自然と集まってくる会社。お客様が初めて来店・来訪した瞬間に「なんかここは違う」と感じ、説明を聞く前から信頼感が芽生える会社。幹部や社員が「自分たちがこの会社をつくっている」という誇りを持ち、指示がなくても主体的に動く会社。経営者がいなくても「あの会社らしさ」が組織全体に宿り、承継しても変わらない核が存在する会社。これは理想論でも絵空事でもありません。現実にこれを実現した企業の事例を、いくつかお伝えします。

― 「空気の設計」が採用・定着を変えた事例――ネットフリックスとSOMPOホールディングス

米国のNetflix(ネットフリックス)は、2009年に「カルチャーデック(Culture Deck)」と呼ばれる会社の空気・価値観を記した125枚のスライドを公開しました。当初、これはシリコンバレーで「シリコンバレーで最も重要なドキュメント」とまで評されました。このドキュメントには採用基準、意思決定の哲学、失敗への向き合い方、社員への期待まで、「うちの会社の空気」が余すところなく言語化されていました。その結果、何が起きたか。ネットフリックスは採用の質が劇的に向上し、「この会社の空気に共鳴した人だけが来る」という構造が生まれました。

同社の共同創業者リード・ヘイスティングスは著書「NO RULES(ノー・ルールズ)」(2020年)の中で、「私たちは最高の職場環境をつくるために、ルールをなくした。代わりに、カルチャー(空気)を徹底的につくり込んだ」と述べています。空気の言語化と設計が、採用コストを下げ、定着率を高め、組織の自律性を生み出したのです。日本でも、SOMPOホールディングスが「パーパス(存在意義)経営」への転換を宣言し、空気の再設計に取り組んだ結果、社員エンゲージメント調査のスコアが大幅に改善され、離職率低下と新規事業創出の加速という成果が報告されています(同社統合報告書2023年版)。「採用難・定着難」という課題の解決策は、採用手法の改善ではなく、まず「空気の設計」にあるのです。

― 「空気の設計」が売上を変えた事例――ウェグマンズとコストコ

米国の食料品スーパーチェーン「ウェグマンズ・フード・マーケット(Wegmans Food Markets)」は、フォーチュン誌「最も働きがいのある会社」ランキングに25年以上連続でランクインし続け、顧客満足度においてもスーパー業界で常に全米トップクラスに位置する企業です。競合との価格差はわずかであるにもかかわらず、なぜこれほどの顧客ロイヤリティを誇るのか。その核心は、「従業員が誇りを持って働く空気」にあります。ウェグマンズは従業員教育に業界平均の3倍以上の投資を行い、「従業員が幸せでなければ、お客様は幸せになれない」という哲学を空気として組織全体に浸透させています。

同社のロバート・ウェグマンCEOはかつてこう言いました。「商品を売る前に、空気を売れ。空気に満足したお客様が、商品を買ってくれる」と。その結果、同社の顧客一人あたりの年間購入額は競合チェーンの約2.3倍、リピート率は業界平均を大幅に上回ります。一方、コストコ(Costco Wholesale Corporation)は、小売業としては驚異的な年間離職率(時間給社員で約6%、業界平均30%超)の低さを誇り、それが「慣れた従業員による質の高い接客の空気」という好循環を生んでいます。空気の設計は、売上と利益に直結するのです。

― 「空気の設計」が承継を可能にした事例――虎屋と中川政七商店

事業承継の不安を持つ経営者に、ぜひ知っていただきたい2つの日本企業があります。室町時代創業、約500年の歴史を持つ和菓子の「株式会社虎屋」は、創業者不在の時代をいくつも乗り越えながら、なぜ「虎屋らしさ」が継続されてきたのか。その答えは、「とらやの五訓」に代表される価値観・哲学の言語化と、それを体現する接客・商品開発・空間設計という「空気の仕組み化」にあります。何代にわたって経営者が変わっても、お客様は「あ、虎屋の空気だ」と感じることができる。これは、数百年かけて積み上げられた究極の透明資産の継承です。

また、奈良県に本社を置く「株式会社中川政七商店」は、創業300年超の老舗でありながら、現代的なブランド再生に成功した企業として注目されています。13代目の中川淳氏は著書「奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。」(2010年)の中で、承継の本質についてこう述べています。「私が引き継いだのは商品ではなく、この会社が長年かけて育ててきた空気だった。その空気を現代に翻訳することが、私の仕事だった」と。中川政七商店は現在、国内外に70店舗超を展開し、その「日本の手仕事を伝える空気」は、どの店舗に入っても一貫して感じることができます。承継で本当に引き継ぐべき「目に見えない核」を仕組み化することが、虎屋と中川政七商店が証明する承継成功の方程式です。

― 「空気の設計」は再現可能である――ジム・コリンズが示したビジョナリー・カンパニーの法則

ここで重要な問いがあります。ウェグマンズも、虎屋も、中川政七商店も、「もともとそういう文化があった会社だ」という話であって、自分の会社には当てはまらない――そう感じる経営者もいるかもしれません。しかし、経営学者ジム・コリンズは、著書「ビジョナリー・カンパニー(Built to Last)」(1994年)および「ビジョナリー・カンパニー2(Good to Great)」(2001年)において、長期にわたって卓越した業績を上げる企業に共通する要因を徹底的に分析しました。

その結論の一つが「時を告げるのではなく、時計をつくる」という概念です。偉大な経営者は、自分が毎日答えを出し続ける(時を告げる)のではなく、自分がいなくても答えが出続ける仕組み(時計)をつくる。そして、その仕組みの核心が「空気(カルチャー・価値観)の設計図」だとコリンズは断言しています。つまり、「もともとそういう文化があった」のではなく、偉大な経営者が意図的に「そういう空気を設計し、仕組み化した」から、長期にわたって機能し続けているのです。この事実は、あなたの会社でも同じことができるということを意味します。空気の設計は、特別な才能や規模ではなく、「意図」と「仕組み」によって実現できる。それが、20年以上のコンサルティングの現場で私が確信してきたことです。

― 「意図的に空気をつくる」仕組みとは何か

では、「理想の空気を意図的につくる」ために、具体的に何が必要か。私がコンサルティングの現場で確認してきた共通のステップを、ここで整理します。まず必要なのは、「自社の透明資産の源泉を掘り当てる」ことです。経営者の創業ストーリー、会社が乗り越えてきた苦難の歴史、商品・サービスが生まれた背景にある情熱、顧客から寄せられた感謝の声。これらは、あなたの会社の「空気の源泉」であり、財務諸表には決して現れない最強の資産です。ネットフリックスがカルチャーデックで行ったように、この源泉を言語化することが最初の一歩です。次に必要なのは、「その空気を日常の経営行動に宿らせる仕組みをつくる」ことです。

朝礼のやり方、会議の文化、クレーム対応の哲学、採用基準、社内の情報共有の透明度――これらは「空気を実装するソフトウェア」です。特定の個人の感性に依存せず、誰が担当しても「この会社らしい空気」が再現されるように設計することで、組織は初めて経営者依存から脱却できます。そして最後に、「空気の残高を定期的に検証し、更新し続ける」仕組みが必要です。空気は生き物です。社会の変化、顧客の変化、従業員の世代交代に合わせて、空気のアップデートが求められます。この検証と更新のサイクルを持つ組織が、時代の荒波に揺れながらも中心軸を失わずに成長し続けることができるのです。

― 透明資産コンサルティングが解決する「根っこの課題」

私が提供する「透明資産コンサルティング」は、まさにこのプロセスを、あなたの会社の規模・業種・経営状況に合わせてオーダーメイドで設計・実装するものです。コンサルティングの対象となる経営者の皆さんには、共通した特徴があります。「数字には出ないが、自社には競争力の高い強みがあると感じている」「目先の売上づくりを繰り返しているが、根本的な土台をつくりたい」「人が育たない、採用・定着・育成に長年悩んでいる」「M&Aや承継を視野に入れ、企業価値の本質的な向上を考えている」。

これらの悩みを持つ経営者に対して、私は「空気の源泉の発掘→言語化→仕組み化→運用・検証」という全プロセスを伴走してきました。重要なのは、このプロセスには正しい順番と方法論があるということです。センスや熱意だけでは、空気は意図通りに設計できません。だからこそ、20年以上の現場と研究から体系化された「透明資産の構築プログラム」が必要なのです。

― 数字の前に「空気」を整えた経営者だけが、次の時代を制する

ジム・コリンズは「ビジョナリー・カンパニー2」の中で、偉大な企業への転換を「弾み車の回転」に例えました。最初は重くてなかなか動かない弾み車も、正しい方向に力を加え続けることで、やがて自力で回り始める。その「正しい方向」こそが、空気の設計です。Google、Netflix、ウェグマンズ、コストコ、虎屋、中川政七商店――規模も業種も時代も違うこれらの企業が、一様に証明していることがあります。それは「空気を先に整えた企業が、業績を後からつくる」という法則です。

採用難も、離職も、売上停滞も、承継不安も、根っこにある「空気の課題」に向き合うことで、初めて本質的な解決が始まります。経営の数字は、鏡です。過去の空気が結晶化したものにすぎません。未来の数字をつくるのは、今日から設計する「空気」です。あなたの会社の空気は今日、誰かの背中を押しましたか。誰かを「ここにいたい」と思わせましたか。誰かに「またあの会社に頼もう」と思わせましたか。もしその問いに少しでも「まだ足りない」と感じるなら、今こそ「空気の設計」を始めるタイミングです。

― 勝田耕司