『透明資産』経営のススメ危機管理(クライシスマネジメント)と透明資産――不祥事を防ぎ、逆境を「絆」に変える組織の浄化力

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。

透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です

ー組織を崩壊させる「沈黙」という名の猛毒

経営者の皆様、近年世間を騒がせている企業の不祥事をニュースで見るたび、何を思われるでしょうか。「なぜこれほどの大企業が、こんな単純なミスを隠し続けてしまったのか」「うちの会社は大丈夫だろうか」と、胸をざわつかせている方も多いはずです。驚くべきことに、こうした不祥事のほとんどは、最初から「悪意を持った犯罪者」がいたわけではありません。始まりは、現場の小さなミスや、目標達成のための「ほんの少しの無理」だったはずです。それが、組織の中に流れる「言えない空気」によって地下へ潜り、時間の経過とともに誰にも触れられない巨大な膿へと膨れ上がっていったのです。

危機管理における最大の敵は、情報の欠如ではなく、組織に蔓延する「沈黙」です。「悪い報告をすると叱責される」「空気を読んで黙っている方が得策だ」という不透明な空気が一度定着すれば、どんなに厳格なコンプライアンスマニュアルを整備しても、内部通報制度を作っても、それらは全く機能しません。透明資産経営の視点から言えば、危機管理とは不祥事を「起きないように縛る」ことではなく、不祥事の芽を「すぐに日光の下にさらす」ことのできる、自浄作用のある空気を育むことに他なりません。

ー自浄作用を駆動させる「情報の公明正大」

不祥事を防ぎ、有事の際にも揺るがない組織の「浄化力」を体現しているのが、サイボウズ株式会社の事例です。彼らが実践している「徹底した情報の公明正大」は、日本の危機管理のあり方に一石を投じています。サイボウズでは、経営会議の議事録から個人の給与決定プロセス、さらには社員同士のやり取りに至るまで、ほとんどすべての情報が社内ツール上で全社員に公開されています。

この「隠し事ができない空気」こそが、究極の危機管理です。情報が透明であれば、誰かが不正を企てたり、ミスを隠蔽したりすること自体が物理的・心理的に困難になります。何より、社員一人ひとりが「自分も経営の一部を見ている」という当事者意識(透明資産)を持つため、何らかの違和感が生じた際に、それが大きな問題になる前に誰かが声を上げるという「自律的な自浄作用」が働きます。危機管理とは、特別な部署がやる仕事ではなく、透明な空気の中で全員が「おかしい」と言える状態を作ることなのです。

また、メルカリの事例も示唆に富んでいます。急成長を遂げる中で多様な人材が集まるメルカリでは、「Trust & Openness(信頼と開放)」というバリューを徹底的に浸透させています。失敗を責めるのではなく、その失敗から何を学べるかを全員で共有する空気。これにより、現場のミスが報告されやすい「心理的安全性」が確保され、リスクが早期に発見される仕組みが構築されています。逆境に直面した際にも、情報を隠さず透明に開示し、迅速に修正に動く。この「修正力」という透明資産が、ブランドへの信頼をさらに強固なものへと変えていくのです。

ー統計が裏付ける「心理的安全性」と「不正リスク」

なぜ、空気を澄ませることが危機管理に直結するのか。それを裏付けるのが、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授の研究や、国際的な不正検査基準の考え方です。不正は「動機・機会・正当化」の三要素が揃ったときに起きると言われますが、空気が澄んでいる組織では、この中の「正当化」と「機会」が封じられます。周囲が誠実であり、情報がオープンであれば、「みんなやっているから」「バレないだろうから」という言い訳が成立しなくなるからです。

また、EY(アーンスト・アンド・ヤング)の「グローバル不正調査」などのデータでも、倫理的な文化が浸透しており、社員が安心して通報できる組織ほど、不祥事による経済的損失が圧倒的に少ないことが示されています。不透明な空気は、不正の隠れ蓑になるだけでなく、社員のモラルを低下させ、組織全体の免疫力を奪います。危機管理への投資とは、セキュリティシステムを導入すること以上に、社員が「真実を語ること」を奨励する空気づくりに投資することなのです。

ー社長塾と社内学校が育む「組織の免疫力」

この浄化力を組織に根付かせるために、経営者は「社長塾」で、自らの失敗や迷いを透明にさらけ出す姿を見せなければなりません。社長が「私は完璧ではないし、間違えることもある。だから、おかしいと思ったらすぐに指摘してほしい」と宣言すること。そして、実際に悪い報告を持ってきた社員を、たとえそれが数千万円の損失であっても「早く報告してくれてありがとう」と称賛すること。この社長の「在り方」こそが、組織の空気を浄化する最初の一滴となります。

そして「社内学校」では、各部門の先輩社員が「かつて犯した失敗」と「それをどう正直に伝えて解決したか」という、泥臭いリカバリー体験を後輩に継承すべきです。社内学校の真の目的は、成功法則を教えること以上に、組織の「誠実さの基準」を共有することにあります。「やり方」のミスは許されても、「隠す」という「在り方」のミスは許さない。この共通認識が現場に浸透していることが、最強の防波堤となります。

ー逆境を絆に変える「透明な対峙」

もし、不幸にも大きなトラブルや社会的な逆境に直面したとしたら、その時こそ透明資産の真価が問われます。不透明な組織は、自己防衛のために情報を小出しにし、言い訳を重ね、結果として顧客や社会との絆を完全に断ち切ってしまいます。しかし、透明資産が蓄積された組織は違います。

逆境の際、社員全員に真実を共有し、一致団結して問題解決に当たる。その「苦難を共にするプロセス」そのものが、社員同士の、そして顧客との絆をより深いものへと変えていきます。不祥事やミスは、組織を壊すためだけにあるのではありません。それをどう透明に対処するかによって、組織がさらに強く、高潔な存在へと生まれ変わるための「通過儀礼」にすることもできるのです。

社長、あなたの会社の「悪い報告」は、社長室に届くまで何時間かかっていますか。その報告は、途中で誰かの忖度によって薄められてはいないでしょうか。 危機管理とは、社員を疑うことではありません。社員が「誠実でありたい」と願う心を、組織のルールや空気で邪魔しないことです。透明な情報の流れという「血液」を滞らせないこと。それこそが、あなたの会社を不測の事態から守り抜き、100年先まで信頼される企業へと導く、唯一無二の防衛戦略なのです。

あなたの会社の空気は、今日、誰の「勇気ある一言」を救いましたか?

ー勝田耕司