こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。
ー「技」に溺れる経営、「重心」を忘れた組織
経営者として日々奔走する中で、あなたは「これさえ導入すれば、組織が劇的に変わるはずだ」という魔法の杖を探してはいないだろうか。
最新のマーケティング手法、最先端のDXツール、あるいは世界的なコンサルティングファームが提唱するフレームワーク。これらはすべて、経営における「技」である。
しかし、武道の世界を思い出してほしい。足腰がふらつき、重心が浮き上がっている者が、どれほど華麗な技を繰り出そうとしても、相手を倒すことはできない。それどころか、技を繰り出した瞬間に自らのバランスを崩し、自滅するのが関の山だ。
経営も全く同じである。組織の「重心」とは、そこに流れる空気、すなわち「透明資産」そのものだ。この重心が整っていない組織に、どれほど高価な「技(戦略)」を注ぎ込んでも、それは穴の開いたバケツに水を汲むようなものだ。
戦略が空回りし、現場が疲弊し、結局は「うちの社員には無理だった」という社長の溜息で終わる。この悲劇を、私は全国の至る所で目にしてきた。
ーエビデンスが語る「組織風土」の圧倒的影響力
なぜ、空気(組織風土)は戦略を飲み込んでしまうのか。 和光大学リポジトリに収められた「組織の活性化を導く風土変革に関する一考察」では、リトウィンとストリンガーによる組織風土の定義を引用し、組織の風土が従業員のモチベーション、延いては企業のパフォーマンスに決定的な影響を与えることを論じている。
ここで重要なのは、組織風土は「なんとなく」存在するものではなく、経営者の意思決定や管理システムによって「作られてしまう」という点だ。
例えば、どんなに「イノベーションが必要だ」と戦略を語っても、現場の空気が「失敗すれば査定に響く」「余計なことをすると仕事が増える」という現状維持バイアスに支配されていれば、社員は本能的に動かない。これは怠慢ではなく、組織における「生存本能」である。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の研究データ(「従業員の健康状態と労働意欲」)によれば、職場環境の悪化は、個人の健康を害するだけでなく、労働生産性を著しく低下させることが統計的に証明されている。
具体的には、精神的ストレスが高い職場では、プレゼンティーズム(出勤しているが心身の不調で生産性が落ちている状態)による損失が、欠勤による損失を遥かに上回ることが明らかになっている。つまり、戦略の空回りは「能力の欠如」ではなく、空気がもたらす「意欲の減退」が真因なのだ。
ー成功企業は「戦略」より先に「土台」を創る
「働きがいのある会社」2025年版に名を連ねる企業や、心理的安全性AWARDを受賞する企業を分析すると、彼らが戦略を走らせる前に、いかに「土台(空気)」の構築に心血を注いでいるかが浮き彫りになる。例えば、株式会社リクルートだ。
彼らの強さは、独自の「個の尊重」という空気が、単なる思想ではなく「仕組み」として運用されている点にある。「お前はどうしたい?」という問いは、徹底的に個人の内発的動機を掘り起こす。
この空気が醸成されているからこそ、会社が新しい戦略を打ち出した際、社員はそれを「会社の命令」ではなく「自分の挑戦」として捉え直すことができる。重心が低く、どっしりと構えているからこそ、どんなに鋭い技(戦略)も威力を持って市場に突き刺さるのだ。
また、味の素株式会社の事例も非常に示唆に富んでいる。彼らはウェルビーイング経営を単なる「社員サービス」ではなく、成長のための「インフラ」と定義している。社員の健康と働きがいが担保されて初めて、高度なASV(味の素グループ・シェアード・バリュー)という戦略が機能するという順序を、経営陣が深く理解しているのである。
中外製薬が「チームワークに優れた企業」として評価されるのも、組織内の連携を「属人的な努力」に頼るのではなく、情報をオープンにし、心理的障壁を取り除く「空気のインフラ」を整えた結果である。戦略は、このインフラの上を走る高速鉄道のようなものだ。線路が歪んでいれば、列車は脱線する。
ー透明資産を積み上げる「4つのステップ」
では、空回りする戦略を止め、組織の重心を低く整えるにはどうすればよいか。私は、透明資産を構築するための「4つのステップ」を提唱している。
1. 理念の「体熱化」 壁に貼られただけの理念は、冷え切った死文化である。それを社長の熱量で語り直し、社員一人ひとりの個人的な目標と結びつける作業が必要だ。これが空気の「温度」を上げる。
2. 習慣の「儀式化」 挨拶、掃除、あるいは会議の進め方。日常の些細な行動を、組織の価値観を体現する「儀式」にまで高めることだ。例えば、心理的安全性AWARDを受賞した株式会社賀正軒では、大小に関わらず「称賛し合う」習慣が、挑戦を恐れない空気を作っている。
3. 場の「聖域化」 心理的安全性を担保するための「場」を、絶対に守るべき聖域として確保する。三井金属鉱業の「みんなで愉しむ」風土づくりのように、遊び心や対話が許容される時間をあえて経営がデザインするのだ。
4. 資産の「可視化」 「なんとなく良い雰囲気」で終わらせず、エンゲージメントスコアや離職率、あるいは社内公募への応募数といった数字で、空気の変化を定量的に追跡する。これが「透明資産経営」の根幹である。
ー2026年、社長に求められる「覚悟」
戦略は買えるが、空気は買えない。 2026年という時代は、情報の非対称性が消滅し、あらゆる「技」がコモディティ化していく時代だ。あなたの会社が生き残る唯一の道は、競合他社が逆立ちしても真似できない「独自の空気」=「透明資産」を磨き上げること以外にない。
もし、今あなたの会社の戦略が空回りしていると感じるなら、一度立ち止まってほしい。そして、社員の目を見てほしい。彼らは、あなたが掲げた旗に向かって、心から走り出したいと思っているだろうか。それとも、旗を振るあなたのパフォーマンスを、冷めた目で見守っているだろうか。
冷めた空気に戦略を注ぐのは、もうやめよう。 まずは、あなたが誰よりも透明になり、組織の「不透明な淀み」を解消すること。社長が「技」を捨てて「重心」に向き合ったとき、組織は初めて、あなたの想像を超えるスピードで動き出す。
ー空気という名の「最強の武器」を手に
透明資産経営は、一朝一夕には成し遂げられない。しかし、その投資対効果(ROI)は、他のどんな設備投資よりも確実で、かつ永続的だ。 三井物産や日清食品ホールディングスが、なぜ時代が変わっても強いのか。それは彼らが、目に見える事業ポートフォリオ以上に、目に見えない「組織の底力」、すなわち何が起きても崩れない空気感を、何十年もかけて積み上げてきたからだ。
あなたの代で、そのバトンを完成させる。その覚悟こそが、今、最も求められている「戦略」なのかもしれない。
さて、あなたの会社の重心は、今、どこにありますか?
ー勝田耕司

