空気という「見えない力」を経営パワーに変える──心地よい会社を創り、収益を最大化する透明資産経営の3つのポイント
こんにちは、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
「空気」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。多くの人は、目に見えず、触れることもできない、当たり前のようにそこにある存在を想像するかもしれません。しかし、私がここで語る「空気」は、単なる物理的な存在ではありません。それは、企業の内部に漂い、お客様との接点に宿り、最終的には企業の成長と収益に直結する、まさに見えない資産、私が提唱する透明資産という仕組みが創りだすことです。
「この会社、なんだか雰囲気が良いよね」「あのお店はいつも居心地がいい」。こうした漠然とした感覚は、実は偶然に生まれるものではなく、経営者の意図と、それを具現化する緻密な仕組みによってつくり出されています。しかし、残念ながら、多くの経営者は、この「空気」を意図的に経営に活かせること、そして活かすことの絶大な価値について、まだ十分に理解しているとは言えません。空気感、いわば雰囲気という曖昧なものを、どうやって経営戦略に組み込むのか、どうやって具体的な収益に結びつけるのか、その構造や仕組みがまだ見えにくいからでしょう。
しかし、現代のビジネス環境において、この「空気」を意図的につくり、経営に活かすことは、もはや選択肢ではなく、企業が持続的に成長するための必然だと考えています。商品・製品やサービスの機能や価格だけでは差別化が難しい今、お客様は体験を、従業員は働きがいや帰属意識を、そして社会は信頼できる企業を求めています。これら全ては、「空気」によって育まれる価値であり、最終的には企業の収益に変換される売上、利益、お金になるのです。
今日のコラムでは、もっと心地よい会社をつくるために、「空気」を意図的につくる透明資産の仕組みを生み出し、経営で活かしてほしいという私の強いビジョンを共有しながら、「空気」を経営に活かすことの意義、そしてそれを具体的に「お金」に変える仕組みの重要性について、3つの主要なポイントと、具体的な企業事例や研究結果を交え長いお伝えしていきたいと思います。
―1、感情的価値の創出が、お客様と従業員の行動を変える
私たちは、日々の生活の中で無意識のうちに、多くの「空気」を感じ取り、それに従って行動を決定しています。例えば、飲食店を訪れる際、私たちは単に美味しい料理を求めているだけではありません。活気ある賑わい、落ち着いた雰囲気、店員の明るい笑顔や心地よいBGMなど、五感で感じる「空気」が、そのお店を選び、また再来店する大きな理由となります。
ホットペッパーグルメ外食総研の調査(2023年)では、再来店理由の1位が「雰囲気がよかったから」で58.7%を占め、料理の味や価格を上回る結果が出ました。これは、お客様が機能的価値だけでなく、感情的価値としての心地よい「空気感」に、いかに大きな価値を見出しているかを示す明確な裏付けデータとなります。スターバックスはその典型的な事例でしょう。彼らは単にコーヒーを売るだけでなく、家でも職場でもない第三の場所(サードプレイス)という独自の心地よい空気感をデザインしました。お客様はその雰囲気の中で過ごす時間に価値を見出し、多少高価であってもリピートし、その空間で友人との会話を楽しみ、時には仕事に集中します。この「空気感」が生み出す感情的価値こそが、顧客ロイヤルティを高め、継続的な売上へと直結しているのです。ハーバード・ビジネス・スクールの研究でも、顧客体験が優れている企業は、そうでない企業と比較して、顧客ロイヤルティと収益性が有意に高いことが示されています。
この感情的価値の創出は、お客様だけでなく、従業員にも大きな影響を与えます。企業内の「空気」が良好であれば、従業員は安心して仕事に取り組むことができ、高いモチベーションを維持できます。Googleが実施した有名な「Project Aristotle」では、チームの成功に最も寄与する要素として心理的安全性が挙げられました。これは、チームの誰もが、気兼ねなく意見を言ったり、質問したり、あるいは失敗を認めたりできるような、オープンで信頼できる「空気」のことです。心理的安全性が高い組織では、離職率が30%以上低下するというエビデンスも示されています。
これは、従業員が「この会社は自分を受け入れてくれる」と感じる安心感が、彼らのエンゲージメントと定着率という、企業にとって極めて重要な透明資産を育むことを意味します。株式会社サイボウズの青野慶久社長は、多様な働き方を許容し、社員が能力を最大限に発揮できるような企業の風土づくりを徹底しています。その結果、同社は離職率を大幅に改善し、イノベーションを促進しています。
このように、「空気」が作り出す感情的価値は、お客様の購買行動を促し、従業員の生産性を高めるという形で、最終的に企業の具体的な収益に変換されるのです。
―2、意図的な設計と仕組み化が、空気をお金に変える鍵となる
「空気」を経営に活かすということは、それを単なる感覚的な「雰囲気」で終わらせず、意図的に設計し、再現可能な仕組みとして組織に組み込むことを意味します。文明の利器がそうであったように、飛行機が飛ぶためには空気力学の法則を理解し、それを具体的な機体の設計に落とし込む仕組みが必要です。電気を使うためには、発電から送電、そして家電製品に電力を供給する一連の仕組みが不可欠です。企業の「空気」も同様に、漠然と良い雰囲気になればいいなと願うだけでは何も変わりません。そこには、明確な意図に基づいた設計と、それを継続的に実現するための仕組み化が求められます。
例えば、株式会社オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート運営会社)は、その徹底した顧客体験の設計で知られています。彼らは、アトラクションやパレードといった目に見える要素だけでなく、キャストの笑顔、清掃の徹底、パーク内のBGM、そして待ち時間を飽きさせない工夫など、お客様がパーク内で感じるあらゆる「空気」を意図的にデザインしています。これは、単に「楽しませる」というだけでなく、「また来たい」という再来店意欲を喚起するための緻密な仕組みとして構築されています。彼らの顧客満足度の高さとリピート率の驚異的な数値は、この「空気感」の意図的な設計と仕組み化が、いかに強力な収益源となるかを示す好例です。
PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査によると、顧客体験が優れた企業は、そうでない企業に比べて顧客ロイヤルティが平均で1.5倍高く、売上成長率も高いという結果が出ています。これは、「空気」を設計する投資が、直接的に収益に結びつくことを裏付けています。また、企業内部の「空気」の仕組み化も同様に重要です。リクルートワークス研究所の調査にあるように、「上司の態度が前向き」だと、部下のモチベーションは平均で23%向上するというデータがあります。これは、経営者やリーダーがポジティブな空気を意図的に発信し、それを組織全体に波及させる仕組みを構築することの重要性を示しています。日々の朝礼でのポジティブな声かけ、感謝の言葉の交換、チーム内での成功事例の共有など、一見些細な行動が積み重なることで、ポジティブな空気が醸成され、社員の生産性や創造性という透明資産が育まれます。
ある中堅飲食チェーンでは、空気の月例点検制度を導入し、週に一度のスタッフによる空気評価シートや月例の空気感フィードバック会を行うことで、半年で離職率が17%改善し、リピート率が24%向上したという報告があります。これは、「空気」を定点観測し、改善サイクルを回す仕組み化が、具体的な成果としてお金に変換されることを示しています。「空気」は、魔法のように自然に生まれるものではありません。それは、経営者の「こうありたい」というビジョンに基づき、人々の感情や行動の法則性を理解し、それを具体的な行動やプロセスに落とし込む設計と、継続的に維持・改善するための仕組み化によって、初めてお金に変えることができるのです。
―3、長期視点と未来への投資として捉える必然性
電気も水道も、それが社会に普及するまでには、莫大な初期投資と長い年月が必要でした。しかし、今やそれらは社会インフラとして不可欠であり、その投資が現在の豊かな生活の基盤を築いています。これと同様に、経営に活きる「空気」を意図的につくりだすという透明資産の仕組設計への投資も、短期的なコストとして捉えるのではなく、企業の未来を創造するための不可欠な戦略的投資と捉える必然性があります。多くの経営者が、広告費や設備投資といった目に見えるコストには躊躇なく投資をする一方で、会社の雰囲気作りといった「空気」への投資には消極的になりがちです。しかし、この見えない投資こそが、長期的に見て企業の競争優位性を確立し、持続的な成長を可能にするのです。
例えば、パタゴニアの経営哲学は、まさにこの長期視点での「空気」への投資を体現しています。彼らは、環境保護や社会貢献を単なるコストではなく、企業の存在意義そのもの、つまり大義として掲げ、商品・製品の製造から流通、そして消費者の手に渡るまでの全てのプロセスにおいて、環境負荷の低減と倫理的な配慮を徹底しています。オーガニック素材の使用やリサイクル推進、さらには「この○○を買わないでください」というメッセージで過剰消費に警鐘を鳴らすなど、一見すると自社の利益に反するような行動も厭いません。しかし、この地球を救うためにビジネスをするという明確なパーパスと、それに基づいた行動が、お客様からの深い共感と信頼という透明資産の源泉を磨き上げています。この信頼が、熱心なファンを生み出し、結果として高価格帯の商品であってもお客様に選ばれ続け、持続的な高収益を実現しています。
ある調査では、消費者の75%が「環境や社会問題に取り組むブランドを支持する」と回答しており、またサステナビリティにコミットする企業は、そうでない企業と比較して、株価パフォーマンスが高い傾向にあるという検証結果も多数存在します。企業にとっての「空気」への投資は、短期的には見えにくいかもしれませんが、社員のエンゲージメント向上による生産性アップ、離職率の低下による採用コスト削減、顧客ロイヤルティ向上による新規顧客獲得コストの削減、そしてブランドイメージの向上による高付加価値化など、多岐にわたる経済的メリットをもたらします。これらはすべて、最終的に企業の収益と市場価値を最大化する「お金」に変換されるのです。
リーダーは、目先の利益に囚われず、企業が未来にわたって社会にどのような価値を提供し続けるのかという長期的かつ持続的視点を持ち、業績に影響する「空気」を意図的に構築する透明資産という仕組み設計への投資を、最も重要なインフラ投資と捉える必要があります。この認識こそが、企業を真の持続可能な成長へと導く透明資産経営の必然性であり、未来を拓く鍵となるのです。
―まとめ
私たちが今日享受している文明の恩恵は、すべて「見えないもの」の中に可能性を見出し、それを具体的な「仕組み」として具現化し、継続的に磨き上げてきた先人たちのビジョンと努力の結晶です。これと同じように、現代の企業経営において、目には見えないけれど計り知れない価値を持つ「空気」を意図的につくりだす仕組み透明資産を、使いこなすことが、これからの時代を勝ち抜くための絶対的な要件となります。
「もっと心地よい会社をつくりたい」という強いビジョンは、まさに透明資産経営の出発点です。そして、そのビジョンを実現するために、感情の法則性を理解し、意図的に「空気」を設計し、それを継続的に維持・改善する仕組みを構築していくことこそが、企業を真に成長させる道となるでしょう。
今回、「空気」を経営に活かすことの意義、そしてそれを具体的に「お金」に変える仕組みの重要性を、3つの主要なポイントに絞ってお伝えしました。
・感情的価値の創出が、お客様と従業員の行動を変える
・意図的な設計と仕組み化が、空気をお金に変える鍵となる
・長期視点と未来への投資として捉える必然性
これらの原則を経営に深く組み込むことで、あなたの会社は単なる利益追求の組織から、お客様に深く愛され、社員が誇りを持って働き、社会から真に必要とされる未来を創造する企業へと変貌を遂げることができます。
あなたの会社ならではの「空気感」を意図的につくりだす透明資産の仕組は、あなたの会社でどれほどの影響力を発揮するでしょうか? そして、その仕組のパワーを最大限に引き出し、お金に変えるための最初の一歩を踏み出すことができます。
あなたの会社の透明資産を見つけ、育て、そして輝かせていくヒントになれば幸いです。
―勝田耕司