こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「もっと、当事者意識を持ってほしい」
経営者が、社員に最も願うことの一つが、これでしょう。「もっと、当事者意識を持ってほしい」「自分の会社だと思って、オーナーのように働いてほしい」。あなたも、朝礼で、面談で、あるいは理念に掲げて、幾度となく、そう訴えてきたはずです。
ところが、社員の目は、どこか他人事のまま。言われたことはやる。けれど、それ以上、自分から会社を背負おうとはしない。あなたは、もどかしさを募らせます。「なぜ、我が事として考えてくれないのか」と。今日は、その願いが、なぜ一度も叶わなかったのか、その理由を、はっきりと申し上げます。それは——あなたが、社員に「オーナーのように感じろ」と求めながら、あらゆる具体的な意味で、彼らを「オーナーではない」状態に、留め置いているからです。
―人は、何を「自分のもの」だと感じるのか
そもそも、人が何かを「これは自分のものだ」と感じるとき、その感覚は、どこから生まれるのでしょうか。命じられたから、ではありません。あなたが心から「自分のものだ」と感じているもの——たとえば、自宅、愛車、自分がゼロから育てたあの仕事——を、思い浮かべてみてください。それらは、なぜ「あなたのもの」なのでしょう。
組織行動の研究者ジョン・ピアスらは、この「心理的な所有感」が、三つの根から育つことを明らかにしました。第一に、それを自分で「コントロールできる」こと。第二に、それを「深く知っている」こと。第三に、それに「自分自身を注ぎ込んでいる」こと。所有感とは、命令で植えつけられるものではなく、この三つの条件が満たされたときに、ひとりでに芽生えてくる「感情」なのです。
では、あなたの社員を、この三つの物差しで測ってみてください。彼らは、自分の仕事を、自分でコントロールできているでしょうか。それとも、何をするにも、あなたの許可を仰がねばならないでしょうか。彼らは、会社のことを、深く知っているでしょうか。それとも、数字も、財務も、全体像も、彼らの目からは隠されているでしょうか。彼らは、自分を注ぎ込み、その成果を分かち合っているでしょうか。それとも、生み出した利益は、彼らの頭上を素通りして、どこかへ消えていくのでしょうか。もし答えが「いいえ」ばかりなら、社員に「オーナーのように感じろ」と求めるのは、ホテルの宿泊客に「この部屋を我が家だと思え」と言うようなものです。彼らは、知っているのです。自分は、いずれチェックアウトする身だ、と。
―潰れかけた工場を、「オーナーの会社」に変えた男
この三つの条件を、まるごと現場で実践し、奇跡を起こした人物がいます。ジャック・スタック。アメリカの、潰れかけたエンジン再生工場の話です。
1980年代初頭、その工場は、親会社から閉鎖を言い渡された、瀕死の一部門でした。若きスタックは、数人の仲間とともに、莫大な借金を背負ってその工場を買い取ります。彼には、気の利いた経営理論などありませんでした。あったのは、たった一つの、過激な考えだけ。「全員を、名ばかりでなく、本物のオーナーにする」。彼は、会社の帳簿を、社員に完全に開きました。高校を出ていない工員までもが、損益計算書の読み方を学び、自分が使うトイレットペーパー一つが、会社の利益をどう削るのかまで、理解するようになった。そして、決定に加わる「声」と、毎週みんなで数字を確認する「スコアボード」を与え、さらに——会社の株と、利益の分け前という、本物の「取り分」を与えたのです。
スタックは言いました。「オーナーの集団は、従業員の集団に、どんな日でも必ず勝つ」と。結果は、まさに奇跡でした。潰れかけた工場の株価は、その後の数十年で、数千倍にまで跳ね上がり、会社は繁栄を続けました。彼は、社員に「オーナーのように考えろ」と、頼みはしませんでした。社員を、本当にオーナーにした。だから、社員は、オーナーのように考え始めたのです。
―所有感は、「渡すもの」ではなく「育つもの」
ここに、透明資産の核心があります。「当事者意識」とは、説教して植えつけられる美徳ではありません。それは、条件から育つ「感情」なのです。壁に貼ったスローガンで、所有感をインストールすることは、できません。あなたにできるのは、三つの条件——コントロール、知識、取り分——という「水」を与えることだけ。あとは、水を与えられた植物のように、所有感が、目に見えないところで、ひとりでに育っていく。「全員が、我が社のことのように動く」という透明資産は、心構えの号令ではなく、具体的な仕組みの、下流に生まれるものなのです。ちなみに、研究が示す重要な点があります。株を分け与えるだけでは、足りない。「声」も「情報」もないまま取り分だけを渡しても、人は変わらない。三つが、そろって初めて効くのです。
―あなたの手は、何を握りしめているか
さあ、あなたが築いたものを、正直に見てください。あなたは、当事者意識を求めながら——重要な決定は、すべて自分の手に握りしめ、どんな判断にも、自分の承認を要求している。数字は、自分の手に握りしめ、「社員に財務を見せる必要はない」と考えている。そして、生み出された利益の上澄みは、自分の手に握りしめ、社員のもとへは流していない。そのうえで、朝礼に立ち、「自分の会社だと思って働いてくれ」と言う。
社員は、愚かではありません。その矛盾を、肌で感じ取っています。あなたは、「感情」だけを求めながら、その感情が生まれる「原因」を、一つ残らず、握りしめて放さない。そして、最も所有感を抱く準備のできた、有能な社員ほど、その「握りしめ」を、痛いほど敏感に感じ取ります。だから彼らは、雇われ人のレベルまで、静かに熱を落とすか——あるいは、本当に「自分のもの」にできる何かを求めて、あなたの会社を去っていく。あなたの握りしめた手こそが、あなたが嘆いている、あの受け身な空気を、せっせと製造しているのです。
だから、その手を、意図的に、ゆるめてください。まず、社員が自分で切り盛りできる「持ち場」を渡し、そこに、いちいち口を出すのをやめる。次に、数字を開く——全社でなくとも、まずは自分の持ち場の数字を見せ、自分の働きがそれをどう動かすかを、理解させる。それだけで、仕事の見え方は一変します。そして、成果を分かち合う仕組みを、何か一つ、本物で用意する。彼らの努力が、彼ら自身の得になるように。この三つを渡したなら、もう「当事者意識を持て」と言う必要は、ありません。言わずとも、育つからです。想像してみてください。数か月後、誰にも言われないのに、社員が消し忘れの電気を消し、放っておける問題に自ら手を伸ばしている姿を。生まれて初めて、その結果の一部が、彼ら自身のものになったから。
人に、「この会社は君のものだと思え」と、命じることはできません。あなたにできるのは、それを、何か具体的なやり方で、本当に「その人のもの」にすること。そうして一歩下がれば、あなたが乞い求めていた所有感が、ひとりでに立ち現れてきます。次に社員へ「オーナーのように働け」と言いかけたら、その前に、たった一つ、自らに問うてください。私は、これを、どんな具体的な意味で「その人のもの」にしただろうか、と。人は、大切にしろと命じられたものを、大切にはしません。人が大切にするのは、本当に「自分のもの」だけなのですから。
―勝田耕司